プロブロガーとして有名なちきりんさんの「マーケット感覚を身につけよう」という本を読みました。
マーケット感覚とは「価値を認識する能力」のことです。
普通の人には何の価値もないものに見えても、マーケット感覚がある人には「大きな価値がある=市場で高く売れるもの」に見えたりします。
例えば「自分は何の取り柄もない凡人だ」と思っている人がマーケット感覚を身に付けると、「自分の中にある市場で売れる価値」に気付いて今までとは違う全く新しいキャリアやビジネスチャンスを見つけることができます。
また、世の中でこれからどんなものが売れるのか予測できたり、これからニーズが高まる仕事を見極めたりできるようになります。
マーケット感覚による思考アプローチ
マーケット感覚を身につけるための第一歩は、商品やサービスが売買される現場のリアルな状況を想像できるようになることです。商品やサービスが売買される時に、そこでどんな価値が取引されているのか、直感的に思い浮かべることができるかどうかがポイントです。
例えばANAの競合企業を考える時、論理的思考によるアプローチだとANAの事業内容を国内線、国際線、貨物便と分解していって、それぞれの事業の競合企業を挙げていくという流れになると思います。
このアプローチだと「ANAの競合はどこだろう」とざっくり考え始めるよりも、漏れが少なくたくさんの競合企業を思いつくことができます。
一方で、マーケット感覚を使うとまったく異なるアプローチになります。
マーケット感覚によるアプローチとは、現場をリアルにイメージしながら考える思考方法です。ANAが提供する価値が現場でどのように取引されているのかを想像して、そこから他にどんな代替手段があるかを思い浮かべていきます。
例えばとある大企業で海外事業を統括する部長が、なかなか売上が増えない欧州拠点のマネジメントと会議をしなければいけないとします。そんな時にANAの国際線で現地に飛んで会議をするというのもありですが、もしかしたら「Skypeを使ってテレビ会議をやろう!」となるかもしれません。
そうなるとANAの競合は国際線を運営する航空会社だけでなく、Skypeなどの電話会議システムも競争相手になるかもしれません。
このように、リアルな現場を想像しながら考えるのがマーケット感覚を活用した思考方法です。論理的思考とはある意味で正反対の思考方法と言えるかもしれません。
場合分けをしながら一歩一歩順を追って論理的に考える思考方法ももちろん大切ですが、それに加えてマーケット感覚を使って現場のリアルな情景を想像しながら考えることができれば、論理的思考だけでは思いつかない新しいアイデアも生み出せるようになります。
マーケット感覚が身につくと、世界の見え方が大きく変わります。今までは何とも思っていなかったものの中に新しい価値を見つけたり、人生の優先順位が変わったりします。
自分のキャリアを考える時も、「一生懸命頑張る!」のももちろん大切ですが、マーケット感覚を働かせて自分の価値を最も高く売れる場所を探して、「どの市場で頑張るべきか」を考えると自分のキャリア観が変わってくるはずです。
マーケット感覚を身につける5つの方法
マーケット感覚を身につけるには5つの方法があります。
1.プライシング能力を身につける
まだ市場で取引されていない潜在的な価値に気付くためには、自分独自の価値基準を持つ必要があります。
自分独自の価値基準を持っていないと値札についている価格を信じるしかないので、まだ市場で取引されていないものの価値には気付くことができません。
自分独自の価値基準を持ってプライシング能力を身につけるためには、不動産などの大きな買い物をする時だけでなく食事や日用品などの日常的な買い物をする時でも、付いている値札を忘れて「この商品は自分にとってどれぐらいの価値があるのか」と考える癖をつけることが大切です。
日々そういう意識で買い物をしていると、自分にとってどんなものが価値があるのか、市場ではどんな価値が取引されているのかが分かるようになり、徐々に「自分独自の価値基準」が養われていきます。
そして自分独自の価値基準が身につくと、市場で取引されていないものでも価値を判断できるようになります。
2.インセンティブシステムを理解する
次に、人が何かの行動を取った時にその背景にどんな動機があるのかを理解することも重要です。これを「インセンティブシステム」と呼びます。
インセンティブとは人が何か行動を起こすときの見返りや動機のことですね。
人が何かを行動を起こす時、その裏に必ず何かしらの動機があります。人間のインセンティブシステムは非常に複雑です。その複雑なインセンティブシステムに対する理解が、マーケット感覚を身につけるために必要になってきます。
マーケットでは何かしらの価値が取引されています。インセンティブシステムを理解することで、市場で価値を取引する供給者と需要者がどのように行動するのかを推測できるようになります。
もうひとつ、インセンティブシステムを理解するために重要なのが、自分の欲望と素直に向き合うことです。自分の欲望に素直に向き合うと自分の中の欲望センサーに対する感度が高まり、他の人のインセンティブシステムに対しても理解が深まります。
そうすると市場の参加者がどのように行動するのか予測できるようになり、ビジネスでも成功するようになるんです。
3.市場に評価される方法を学ぶ
マーケット感覚を身につける3つ目の方法が、市場で評価される方法を学ぶことです。
組織が何か行動を起こす時は、会議などで細部までじっくりと話し合いながら意思決定が行われます。
一方で今の市場では技術や消費のトレンドがものすごいスピードで変化しているので、「じっくり考えてから行動する人」よりも「とりあえず思いついたものはためしてみるタイプの人」の方が得られるチャンスが多くなります。
有望だと思える案はじっくりと作り込む前にとりあえず実践してみて、市場からの評価をみて何を残すか、どのように改善していくか考えた方がチャンスをつかむ可能性が高まります。
4.失敗と成功の関係を理解する
シリコンバレーでは「失敗経験がない人は全く評価されない」と言われています。
失敗経験がないということは、「これまでの人生で大きなチャレンジをしてこなかった」と思われるからです。また同時に、失敗経験がない人は「成功するために必要な学びを得ていない」ともみなされてしまいます。
日本人的な考え方だと、失敗と成功はコインの表と裏のような関係として捉えられます。何か行動を起こした時の結果として失敗か成功のどちらかが待っているという関係性です。
しかし失敗と成功の正しい関係とは、コインの表と裏のように相反するものではなく、連続的に起きるものとなります。
大きな目標を達成したいと思った時、全ては失敗から始まります。その失敗経験から何かしらの学びを得て、次のチャレンジへと活かします。
「チャレンジ→失敗→学びget→チャレンジ→失敗→学びget」という流れを何回も繰り返して、最終的な成功へとたどり着く。
この一連の流れが失敗と成功の正しい関係性なのです。
自分には何も取り柄がないと思っている人は、失敗しないように十分に準備するよりも、まずは試してみて市場からのフィードバックを活用しましょう。「自分には能力がないからじっくり勉強してから始めよう」と思っていたら、いつまでたっても新しいチャレンジを始めることはできません。
「とりあえずチャレンジ→失敗する→市場からのフィードバックを得る→それを参考にしてもう一度チャレンジ!」というプロセスを何度も繰り返すことが、成功するための標準的なプロセスとなります。
5.市場性の高い環境に身を置く
マーケット感覚を身につけるための5つ目のポイントが、市場性の高い環境に身を置くことです。
市場性の高い場所とは、需要者と供給者が価値を交換する現場や、人間のインセンティブシステムが直接的に働く場所、市場的な意思決定方法が採用されている環境のことです。
全ての人は「自分がいつ、どこでマーケット感覚を養うべきか」をキャリア形成の段階から計画的に考えて、自分のキャリアプランの中に組み込むべきです。
マーケット感覚を身につけて全く違う人生を歩む
まとめると、マーケット感覚を身につけるには以下の5つの方法があります。
- プライシング能力を身につける
- インセンティブシステムを理解する
- 市場に評価される方法を学ぶ
- 失敗と成功の関係を理解する
- 市場性の高い環境に身を置く
世の中には「自分には何の取り柄もないから、起業なんて無理だ、出世なんて無理だ」と悲観的になっている人は多いと思います。
しかし一方で、マーケット感覚を身につければ市場で売れる自分の価値に気付き、今とは全く違うキャリアや人生を歩むことができるかもしれません。
自分のキャリア形成や人生に悩んでいる人、会社で商品企画や営業などに携わっている人、これから起業しようと思っている人、などにはお勧めの本だと思います。