エコノミストとして有名な中原氏による、今後の世界経済を占う本です。今、世界で何が起きているのか、これからの世界経済がどうなるのか、経済に詳しくない人にも分かりやすく簡単に中原氏の考えがまとめられています。
簡単に読める本なので、時間のない人が世界経済の今と今後をおさらいするのにオススメです。
Amazonの内容紹介
他国の経済状況が、目の前の仕事へも影響を及ぼす時代、今後の世界経済の動向は、どんなビジネスパーソンでも、ぜひ知っておきたいところです。本書は、カリスマ・エコノミストとして多くのファンを持つ中原圭介氏が、「今後5年間の世界経済」の行方を独自の視点から予測。中国、アメリカ、ブラジル等の各国の動向から、エネルギー問題まで、いま押さえておくべきテーマについて、わかりやすくまとめました。
【サマリー】
これからは中国に投資すべきではないと考える8つの理由
- 中国の人件費は年平均15~20%で上昇。深センなどの沿岸部の人件費は、2015年にはアメリカ並みに。
- シェールガスの恩恵で将来の生産拠点は中国沿岸部からアメリカ南部にシフト
- 課税強化のリスク
- 環境対応コストの負担増
- 中国のGDP成長率の信憑性(GDP成長率の割に電力消費量が伸びていない)
- 都市部と農村部の格差の拡大→内戦発生リスクの拡大(国防費以上に公共安全費が増加)
- 中国政府主導による大規模な反日デモリスク
- シャドーバンキング問題に見られる不動産バブルの崩壊リスク
シェールガス革命によりエネルギー価格が下落していく
- シェールガスとその副産物であるシェールオイルの生産量が年々拡大
- 2015年頃にはアメリカは世界最大のエネルギー大国になる
- 将来的にはエネルギー輸出国となり、アメリカの貿易赤字は解消
- 2016~2017年頃にはシェールガスの世界への輸出が開始(現在は自由貿易協定の締結国にのみ輸出)
- シェールガスの輸出拡大に伴い世界のエネルギー価格は下落
- 原油価格が下がるとバイオエタノールの価格競争力が失われ、トウモロコシ需要が減少→食糧価格も下落
- エネルギー価格の下落とシェールガス・オイルの供給拡大により、ロシアや中東諸国等の資源国の経済が悪化
- ガソリン価格の下落により電気自動車は普及しにくくなる(航続距離、インフラ整備の問題)
- 今後10年間はハイブリッド車が普及を続け、20年後からは燃料電池車が主流となる
(石油を精製する際に水素が発生するため、追加的なコストをかけずに水素を得ることができる)
地域別の状況
- ブラジル経済が抱える不安材料
・海外からの投資資金の流入により、国内で過剰なまでに信用拡大が生じた
→ブラジルでは一般家計の可処分所得の20%超が借金返済にあてられる
・今後、鉄鉱石価格が下落傾向に転じた場合、ブラジルは貿易赤字国に転落 - ドイツ流の成長:「我慢の成長」:失業保険の支出を絞り、賃上げを抑制→99年以降のドイツの賃金はほとんど伸びていない
- フランス流の成長:「ドイツと対極の成長」:政府の財政出動で需要を創出
- 欧州は2020年になっても本格的には回復ない→三重のバランスシート不況(家計、銀行、国家)
今後はどこの国に投資をすべきか?→日本びいきの国に投資をすべき
- 国内の改善を行わずに海外進出しても、進出先で生産性が伸びずに悩むケースが多い
- 海外投資を行う一番良いタイミング→バブルの崩壊後
- 中国・韓国は政権が変わると約束が反故にされるリスク有り
- カンボジア、ラオス、ミャンマーにはチャンス有り
(安い人件費、若い平均年齢、将来の人口増) - これから民主化する国にはチャンス有り→ミャンマーの土地価格が急騰
今後の海外投資はアメリカ・プラス・ワンを目指すべき
- エネルギーコストが下落しているアメリカを生産拠点の中枢とする
- 親日的な東南アジアのどこかに、「プラス・ワン」の生産拠点を持つ
- 中国市場は魅力的だが、リスクも高い
- 付加価値ベースの貿易統計では、日本が大幅な貿易黒字を維持しているのはアメリカのみ
- 付加価値ベースの貿易統計では、中国や韓国に対しては若干の赤字
(付加価値ベースの貿易統計とは、最終仕向け地をベースとして再計算したもの)
中長期的に米ドルは上昇(ドル高が進む)
- 米国のエネルギー需要の約20%は輸入に依存→貿易収支は巨額の赤字
- 米国の貿易赤字の半分以上は中東から輸入する原油によるもの
- シェールオイルの算出拡大により輸入が減少→貿易赤字が縮小→ドル高要因
- 中東からの原油輸入が減少すると、中東への軍事費も削減できる
- 製造業の国内回帰によって米国の国際競争力が高まる
資本主義の限界があと20~30年で訪れる
- 資本主義の成長は、先進国を本拠地とするグローバル企業が、労働コストの安い新興国や途上国で大量に安い商品を作り、それを先進国で売りさばく事で成り立ってきた。
- グローバル企業の進出により、新興国では雇用が増え、経済が成長し、労働者の賃金・生活水準が向上する
- しかし、賃金水準の上昇により、その国の価格競争力が失われる
- グローバル企業が進出する先がなくなってきている→残るは東西アフリカとアフリカ内陸部のみ
- IMFの2014年の成長予測:世界全体→3.3%、先進国→2.1%、新興国→5.4%
- アメリカの住宅バブル崩壊前の成長率:世界全体→5%、先進国→3%、新興国→8%
- 世界の成長率は、10年後には3%未満になる。20~30年後には1%未満になってもおかしくない。
【本の感想】
中国のバブルが崩壊した後が投資のチャンス
ロジックは多少違いますが、中国に今投資すべきではないという意見には賛成です。2008年以降、急速に信用拡大が起きた中国では、今後数年のうちにリーマンショック規模のハードランディングが起きると予想しているエコノミストも多いです。
2008年以降の中国における社会全体での負債規模は、2008年の危機以前の6年間の米国や英国、バブル崩壊以前の1985~1990年の日本、アジア金融危機以前の韓国と同じような推移をたどっています。更に現在の信用追加のほとんどは、新たな投資ではなく、借金の返済に充てられています。投資家のセンチメントがネガティブに変わったとき、中国の不動産バブルが一気に崩壊するリスクがあると思います。
しかし、中国の経済成長率は7%を超えており、安定したインフレ率、低い失業率、等からもファンダメンタルは意外と健全です。ですので、書籍内でもバブル崩壊後が投資の一番良いタイミングと書かれていますが、これから中国の不動産バブルが崩壊した時こそが、資産を大きく増やすための好機になると思っています。
【「5年後の世界経済入」のリンクと目次】
1章:中国は崩壊もありうる―これからは投資すべきではない
2章:アメリカは製造大国になる―エネルギー価格下落を再評価すべき!
3章:世界各国への投資のタイミングはいつか?―どこの国と付き合うべきか?
4章:「チャイナ・プラス・ワン」から「アメリカ・プラス・ワン」へ―アメリカは「よいデフレ」によって復活する!
5章:日本はこれからどうするべきか―グローバル化の中でのリーダーの戦い方
6章:世界で生き抜くために今からできること―日本の力を活用せよ