先日出した会計クイズですが、正解を発表したいと思います。
まだ解いてないよ!という方は正解の発表に進む前に、ぜひこちらの記事で問題を考えてみてください。
難易度高めの問題ですが、ヒントを1つずつクリアしていくと財務分析のポイントを学びながら正解に近づいていける仕組みになっています。
財務分析の勉強になりますので、ぜひ一度チャレンジしてみてください。
それでは正解の発表に移りたいと思います。
会計クイズ解答編:正解はこの企業でした!
まずはおさらいですが、今回の会計クイズの問題と回答のヒントはこちらです。
ある企業の2018年3月期の財務3表があります。この財務指標の企業名を当ててください。
- ヒント①:総資産>>売上高→労働集約型?資本集約型?
- ヒント②:営業利益率>20%→比較優位企業?過当競争企業?
- ヒント③:CFのパターン→積極投資型?キャッシュリッチ型?
- ヒント④:D/Eレシオ<0.1→財務安定?財務脆弱?
- ヒント⑤:少ない売掛金→個人向け事業?法人向け事業?
- ヒント⑥:少ない在庫→製造業?サービス業?小売・卸売業?
- ヒント⑦:土地、建物・機械が大きい→自社保有?借り物?
財務諸表だけだと解くのは難しいかもしれませんが、ヒントを1つずつクリアして正解にたどりつけた方も多いのではないでしょうか?
それでは正解を発表したいと思います。
正解は、、、
でしたー!!
個人的にはけっこう難しい問題だと思ってたんですが、簡単すぎましたかね??
Twitterや大手町さんのファイナンスラボで皆さんに回答して頂きましたが、かなり高い正解率で驚いております。
7つのヒントからどうやって正解にたどり着けるのか解説していこうと思います。
会計クイズ:ヒントの解説
ヒント①「総資産>>売上高」とヒント⑦「土地と建物・機械が大きい」
- 総資産>>売上高→労働集約型?資本集約型?
- 土地、建物・機械が大きい→自社保有?借り物?
売上高4,793億円に対して総資産が9,156億円もあり、資本集約型の企業であることが分かります。労働集約型の企業(人手によって売上高が生み出される企業)だったら、こんなに固定資産は必要ありませんからね。
なぜこんなに資産が大きいのかということで資産の内訳を見ると、現預金と有価証券以外だと建物・機械や土地の金額が大きいです。これはつまり自社で土地や建物・機械を多く保有していることを意味します。
資本集約型のビジネスをしていて、土地や建物・機械をたくさん持っている企業。
この時点で不動産業、自動化が進んでいる製造業、土地や店舗を活用しているサービス業などが候補として考えられます。
逆に、インターネット業界やITサービス業界のように、有形固定資産があまり必要ない業界や労働集約型の産業はこの時点で候補から外れることになります。
ヒント②:営業利益率は20%以上
利益率20%以上というのは日本企業の平均と比べるとかなり高いですね。
この企業のビジネスは競合他社に対して競争優位性や高い参入障壁を持っており、高い利益率を確保できていることが分かります。
ここで不動産業界ってこんなに利益率高くないから外れるかな?って思って調べてみたんですけど、三菱地所や三井不動産は20%に届きませんが、住友不動産は20%超えてるんですね。
製造業もファナックやキーエンスのように営業利益率が20%を超えている企業は複数あります。
サービス業も利益率が高い企業はたくさんありますね。
なので、「利益率20%以上」というヒントからは「何かしらの競争優位性を持っている企業」ということが分かるだけで、業界の絞り込みまではできません。
ヒント③「キャッシュフロー」とヒント④「D/Eレシオは0.1未満」
- CFのパターン→積極投資型?キャッシュリッチ型?
- D/Eレシオ<0.1→財務安定?財務脆弱?
キャッシュフローのパターンを見ると「営業CFがプラス、投資CFと財務CFがマイナス、フリーCFがプラス」となっているので、しっかりと投資はしていますが投資額は営業CFの範囲内におさまっており、かつ借金もちゃんと返しています。
積極的に投資をしている企業でもなく、かといって完全に成熟して投資が必要ない企業でもないようです。
健全な形で事業が成長している優良企業であると言えそうです。
また、D/Eレシオは0.1未満でキャッシュが潤沢な財務基盤が安定した企業となります。
今まで候補に上がっていた不動産業界は、有利子負債が多いのでここで消えることになります。
キャッシュフローのパターンから企業の状況を読み取る方法については以下の記事も参考にしてみて下さい。
ヒント⑤「売掛金が少ない」とヒント⑥「在庫が少ない」
- 少ない売掛金→個人向け事業?法人向け事業?
- 少ない在庫→製造業?サービス業?小売・卸売業?
ここで正解まで一気に絞られます。
売掛金が少ないということは現金商売をやっているということなので、BtoBよりもBtoCのビジネスである可能性が高いです。
また、在庫水準が少ないので、在庫を抱える製造業や小売・卸売業である可能性は低く、サービス業であることが分かります。
ここまでで、だいぶ業界や企業が絞り込まれたと思います。
ヒントから得られたことをまとめます。
- 資本集約型のビジネスで、土地や建物・機械をたくさん持っている→不動産業、自動化が進んでいる製造業、土地や店舗を活用しているサービス業など
- 営業利益率が20%以上→業界の絞り込みはできないが、競争優位性や高い参入障壁を持った企業
- 営業CFがプラス、投資CFと財務CFがマイナス、フリーCFがプラス→健全な形で成長している優良企業
- D/Eレシオが0.1未満→キャッシュが潤沢な財務基盤が安定した企業(不動産業界が消える)
- 売掛金が少ない→個人向けビジネス
- 在庫が少ない→製造業、小売・卸売業が消えて、サービス業が残る
これらの特徴を頭に入れて、改めて財務諸表を眺めてみましょう。
個人向けのサービス業で、土地・建物を多く活用し、差別化された高い利益率のビジネスを持つ優良企業。
ここまできて、思い浮かぶ企業はないでしょうか。。。??
そうです、正解は東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドですね。
オリエンタルランドのビジネスモデル
オリエンタルランドは1979年から米国のウォルト・ディズニーと業務提携をしており、東京ディズニーランドの売上高の一部をロイヤリティーとしてウォルト・ディズニーに支払っています。
事業内容は①ディズニーランドとディズニーシーを運営するテーマパーク事業、②ディズニーランドホテルなどを運営するホテル事業、③イクスピアリなどを運営するその他の事業の3つに分かれています。
バランスシートの中で土地と建物・機械がやたら大きかったのは、ディズニーランドの土地とアトラクション、ホテルなどが計上されていたからですね。
そして、ディズニーランドの2018年3月末時点での従業員数は正社員だけだと5,825人、アルバイトも含めると19,489人です。
従業員1人当たり売上高は正社員だけを分母とすると8,228万円、アルバイトも含めると2,459万円となります。
運営スタッフとしてアルバイトはたくさん必要になりますが、基本的にはディズニーランドのアトラクションがお金を稼いでくれる資本集約型のビジネスと言えるでしょう。
高い利益率と安定したキャッシュフロー
こちらはディズニーランドのチケット価格と入園者数の推移です。
ディズニーランドは東京にしかないので、関東圏では目立った競合がありません。
日本で一番のライバルはユニバーサル・スタジオ・ジャパンかもしれませんが、商圏もターゲットもアトラクションの中身もまったく違うので、USJに行く人が増えたからと言ってディズニーに行く人が減るということにはなりません。
つまり、オリエンタルランドは競合や新規参入の脅威を受けにくい非常に強いビジネスモデルを持った企業と言えるでしょう。
恵まれた立地と満足度向上のための継続的な投資(新しいアトラクションの追加)により、チケット価格が上がっても入園者数は増加しています。
その結果、過去7年間は営業利益率がずっと20%を超えて推移しています。
設備投資の金額はディズニーシーを建設した時を除いてずっと営業CFの水準を下回っており、安定してキャッシュを生み出す優良企業です。
会計クイズの惜しかった回答
今回は予想以上に正解した方が多かったんですが、惜しいと思った回答は「オリックス」と「ニトリ」ですね。
オリックスはリースや不動産、事業投資などをやっている会社なので、売上高に対して総資産が大きいです。そして製造業ではないので、棚卸資産や売掛金も少なくなります。
ですが、金融が本業の会社なのでバランスシートの形が特徴的で、負債の金額がかなり大きくなります(預金や保険契約債務、有利子負債など)。営業利益率も12%なので低くはないですが、リースや事業投資で営業利益率20%超えるのはかなり難しいです。
「ニトリ」という回答も出ましたね。
総資産に占める土地や建物の割合の高さ(店舗や倉庫)、利益率の高さ(ニトリの営業利益率は10%台後半)、安定した財務基盤、売掛金の少なさ、などはニトリも今回の条件に当てはまっています。
ですが、ニトリは小売業なので在庫がそれなりにあること(総資産の10%弱)、総資産の大きさ(売上高と同程度の総資産規模)などが条件からは外れます。
オリックスもニトリも一部の特徴は満たしていたので、とても惜しい回答でした。
今回の会計クイズを通じて一番伝えたかったこと
大手町さんのファイナンスラボに触発されて初めて会計クイズを出してみましたが、いかがだったでしょうか?
今回の会計クイズを通じて皆さんに一番お伝えしたかったのは、ヒントを1つずつクリアしていくそのプロセスにあります。
おそらく、最初に財務諸表の数字を見た段階では、何から手を付ければいいのか想像できなかった方も多いんじゃないかと思います。
ですが、総資産に対する割合とかキャッシュフローのパターンとか、財務諸表が語っていることは実はとてもたくさんあります。
いろんな切り口で財務諸表を分析すると、今回のように財務データだけからでもその企業がどんなビジネスをやっているのかイメージできてしまうのが、財務分析の面白いところです。
財務分析は株式投資や経営企画、就職活動など様々な分野で役に立つスキルだと思うので、実際の企業の財務諸表を眺めながら皆さんもぜひ勉強してみて下さい。
どうやって勉強すればいいの?っていう人は、大手町さんのファイナンスラボがおすすめです(宣伝みたいになっちゃってますけど別にお金はもらってませんよw)。
財務分析の本って眠くなるものが多いですが、ファイナンスラボでは今回のように企業の実例を見ながら、クイズ形式で財務分析を学ぶことができます。
いろんな企業のビジネスモデルに触れることができるので、僕自身とても勉強になっています。
ということで、財務分析の面白さとファイナンスラボの宣伝で今回の会計クイズを終えたいと思います。
気が向いたらまた新しい問題を考えて出題しますね。