「経済の基本原則」についてとても分かりやすくまとめられた動画を紹介します。
世界最大級のヘッジファンド「ブリッジウォーター」の創業者であるレイ・ダリオ氏が経済の基本原則について分かりやすく解説した動画です。レイ・ダリオ氏は、リーマンショックをあらかじめ予見することで、損失を免れた投資家として有名な方です。
経済の仕組みは複雑に見えますが、実はとてもシンプルに理解することができます。たった30分の動画ですが、この動画を見る前と後では世界を見る目が変わります。
ビルゲイツからも下記のコメントが寄せられており、絶賛されています。
"This knowledge would help everyone as investors and citizens. Watching is a worthwhile 30 minutes investment."
(訳)この知識は投資家、一般市民、全ての人に役立ちます。30分間を投資する価値がある。
動画:Economic Principles(30分で判る経済の仕組み Ray Dalio)
以下、動画の内容をまとめました。
1つ1つの「取引」の積み重ねで「経済」が構成される
取引とは物やサービスと現金・クレジットを交換する行為です。
経済は1つ1つの取引の積み重ねで構成されています。取引によって支出された全ての現金とクレジットの合計が、経済の規模となります。
つまり、1つ1つの取引を理解することが、経済を理解することにつながります。
クレジットは経済を理解するうえで最も重要な概念
クレジットとはお金を貸す人と借りる人の間で生じる契約のことで、お金を借りた人は借りた金額と利子を将来返すことになります。
クレジットが生まれると、お金を借りた人の消費が増えます。誰かの消費が増えるということは、つまり誰かの収入が増えるということです。
「Aの借金が増える→Aの消費が増える→Bの収入が増える→Bの借金が増える→Bの消費が増える→Cの収入が増える→・・・」という形で経済が成長します。
経済成長の3つのドライバー
経済成長は、①生産性の改善、②短期的な債務サイクル、③長期的な債務サイクル、の3つがドライバーとなります。
「取引」では物・サービスと現金が交換されますが、受け取れる物・サービスの量はそれが生産された量に依存します。
時間が経つにつれて知識が蓄積されるので、だんだん物・サービスの質が改善されていきます。これを「生産性の向上」と呼びます。
生産性は短期的に変動するものではなく、長期的に右肩上がりで上がっていきます。つまり、生産性の向上は長期的な経済成長に貢献します。
一方で、債務サイクルが短期的な景気変動を生み出します。
債務サイクルによって、人々が生産量よりも多く消費をする時期と、生産量よりも少ない消費しかしない時期が生まれるからです。
債務サイクルは5~8年の短期的なサイクルと75~100年の長期的なサイクルがあります。
クレジットの存在が経済のサイクルを生み出す
もしクレジットがない(借金ができない)社会だったら経済はどうなるでしょうか?
誰かの消費が誰かの収入になりますが、経済成長のドライバーは生産性の向上だけになります。生産性は短期的に変動するものではないので、経済は一定速度で成長し、サイクルは生まれません。
人々がお金を借りるからこそ、経済のサイクルが生まれるんです。
人々は自分の収入以上のものを購入するために借金をします。しかしその借金は、将来の負担の増加につながり、将来の消費の減少につながります。
つまり、クレジットが生まれることで消費が増えて、経済が好調な時期もありますが、逆に負担が増えて消費が減る時期も生まれます。これが経済のサイクルを生み出すのです。
短期的な債務サイクル(5~8年)の仕組み
短期的な債務サイクルによってクレジットと消費が同時に増加している局面では、経済は成長します。
この時期は「生産量以上に消費をする時期」なので、価格(=消費金額/消費数量)の上昇、つまりインフレを招きます。
中央銀行は過度なインフレを嫌うので、インフレを抑えるために金利を上げます。金利が上がると将来の返済負担が増えるので、借金をする人の数が減ります。
すると好調な時に借りた借金の返済負担もあるため人々の消費が減り、不景気が起きます。
この時期は「生産量よりも消費が少ない時期」なので、価格の下落、つまりデフレを招きます。
不景気が深刻となりインフレの心配がなくなってくると、中央銀行は金利を下げます。金利が下がると借金がしやすくなるので、クレジットの増加が消費の増加を誘導し、経済は再び成長局面へと入ります。
この短期的な債務サイクル(好景気→不景気)は、5~8年の周期で過去何十年も繰り返されてきました。
短期的な債務サイクル=好景気(クレジットと消費が同時に増加)→インフレ→中央銀行による利上げ→不景気(借金の返済負担の増加と消費の減少)→デフレ
長期的な債務サイクル→景気のピーク後に恐慌が起きる
短期的な債務サイクルを繰り返しながら経済は成長していきますが、負債比率が高くなりすぎた時、長期的な債務サイクルにおける景気拡大のピークとなり、世の中は恐慌に陥ります。
日本における1989のバブル崩壊、アメリカにおける1929年の世界恐慌と2008年のリーマンショックが長期的な債務サイクルの転換点にあたります。
恐慌が始まると銀行はお金を貸してくれなくなり、人々の消費が減ります。消費が減ると収入も減るので、借金返済の負担が大きくなり、株や不動産等の資産が売りに出されます。同時に大勢の人たちが資産を売りに出すので、資産の価格が暴落します。
「消費の減少→収入の減少→クレジットの減少→・・・」という流れで不況の時と同じように経済が縮小します。
この流れは短期的な債務サイクルによる不景気と似ていますが、異なるのは金利を下げることが景気回復につながらないことです。
不景気の時は金利を下げることで消費を促し、景気は拡大へと向かいます。しかし、恐慌の時期は金利を下げることによる景気刺激が機能しません。
人々の収入に対して借金の金額が大きすぎるので、返済能力の信頼性が低く、銀行がお金を貸してくれないからです。過去に恐慌が起きた時も金利が0%まで下がっており、それ以上金利が下げられない状況にまでなりました。
1929年の恐慌の後、1930年代のアメリカの金利は0%でした。2008年12月からも事実上のゼロ金利政策がとられています。
恐慌後に起きるデレバレッジ(債務負担の縮小)
通常の不景気と恐慌の違いは、後者は債務者の負債比率が高すぎることです。債務者の返済能力に信用がないので、銀行などの債権者がお金を貸すのをやめてしまいます。
この状態には持続性がないので、経済はデレバレッジ(借金を返済して自己資本比率を高めること)の方向へと進みます。
デレバレッジの局面では次の4つのことが起こります。
1)一般市民、企業、政府が消費を減らす
支出を減らして借金を減らそうとしますが、支出が減るということはつまり社会全体で収入も減るということです。債務負担は軽くならず、デフレからは回復しません。
2)債務の再編(債務の減免。つまり借金を減らすこと)
支出を減らしても債務負担が軽くならないので、破産する人が出てくる可能性があります。そこで借金の減免や利息の免除などの債務再編が行われます。
3)所得の再分配を行う
政府は景気を刺激するために公共事業等の支出を増やします。その支出の資金源は富裕層からの税収となります。政府を通じて富裕層から貧困層への所得の再分配が行われます。
4)中央銀行が新しいお金を刷る
中央銀行がお金を新たに発行して政府から国債を買い取ることで、政府は景気刺激に更にお金を使えるようになります。(1)~(3)はデフレ要因になりますが、中央銀行の紙幣の発行はインフレ要因です。デフレ要因とインフレ要因のバランスを取るのが非常に重要になります。
この一連の流れは最近のデレバレッジの局面(1930年代のアメリカ、1950年代の英国、1990年代の日本、2010年代のスペインとイタリア)では必ず起きています。
デレバレッジに成功するとリフレが起こり、経済が回復する
デレバレッジに成功すると、長期の債務サイクルにおけるリフレーション(デフレから抜け出たが、本格的なインフレには達していない状態)の局面へと入ります。
デレバレッジが進むことで負債比率が減って民間の消費が増加し、社会全体で再びクレジットが生まれます(つまり借金ができるようになる)。
長期的な債務サイクルは、レバレッジ局面(経済成長と負債比率の上昇)が50年以上続いた後、2~3年の恐慌が起き、その後のデレバレッジに成功すると7~10年程度のリフレとなります。
リフレーションの後は経済が通常レベルまで回復しますが、回復までに10年程度かかるので、「失われた10年」と呼ばれたりします。
全ての人に向けた3つのアドバイス
経済は生産性の向上によって長期的に右肩上がりで成長していきますが、短期的な債務サイクルと長期的な債務サイクルの影響で景気のサイクルが生まれます。
最後に、動画のまとめとして政策立案者も含む全ての人に向けた3つのアドバイスがあります。
- 所得の増加以上に借金を増やさないこと
- 生産性の向上以上に所得を増やさないこと
- 生産性を上げるためにあなたができることは全てやること
本質的な経済の成長力はどれだけ生産性を上げられるかにかかっているので、出来る限りの努力を生産性の向上に捧げ、景気変動を小さくするために過度な借金や収入の増加はやめましょう、ということだと思います。
最後に
動画はかなり簡単にまとめられていますが、その背景となるデータや理論についてもホームページでは公開されています。英語で210ページもある資料なので読むのはかなり大変ですが、100年単位で経済を俯瞰することができる数少ない良質なレポートだと思います。
レポートはこちらのページからダウンロードすることができます。