金融・経済動向

日本の鉱工業生産(2018年3月):足元堅調だが「在庫積み上がり局面」入りへ

2018/04/28

日本の鉱工業生産の2018年3月(速報)までの動向をまとめます。

足元の生産は引き続き堅調ですが、在庫がそれ以上に増えていることが気になります。在庫循環図を見ると、景気のピークを越えて「在庫積み上がり局面(景気減速)」に入っています。

鉱工業生産の読み方【基礎編】はこちら

日本の鉱工業生産の短期トレンド

1. 鉱工業生産指数の動向(サマリー)

2018年3月の鉱工業生産(季節調整済み)は前月比1.2%増の103.9となりました。

2018年3月の鉱工業生産動向サマリー

3月は資本財の出荷が堅調で、4月の生産見通しでは設備投資関連の機械で生産増加が見込まれているので、企業の設備投資意欲は引き続き高いことが分かります。

しかし一方で、1-3月期の生産は前年同期比では1.4%増ですが、前四半期比では▲1.4%の減少です。前四半期比での生産減少は2016年1-3月期以来の8四半期ぶりです。

生産の増加以上に在庫も増加しており、在庫循環図を見ると既に景気のピークを越えて「在庫積み上がり局面(景気減速)」に入っていることが分かります。4-5月の生産見通しは引き続き堅調そうですが、今後は徐々に生産が伸び悩んでいくことが予想されます。

なお、政府は「生産は緩やかな持ち直し」という基調判断を維持しています。

2. 業種別の生産動向

業種別でみると、3月は半導体・フラットパネル製造装置、電子部品、開閉制御装置・機器の生産が全体を押し下げました。電子部品は2か月連続で大きくプラスに寄与しています。半導体・フラットパネル製造装置の生産は2月に落ちていたので、3月は反動増となりました。

一方で、金属加工機械、生活関連産業機械、電気計測器の生産が減少しました。

3. 在庫循環図

2018年1-3月期の生産は前年比2.4%増、3月末の在庫は前年比4.1%増でした。景気のピーク(下図のオレンジ線)を超えて「在庫積み上がり局面」へと突入しています。

今後は生産の伸び率が徐々に低下し、マイナス圏に向かっていくことが予想されます。

在庫循環図の解説
在庫循環図とは、生産と在庫の伸び率を比較することで、景気循環の局面を判断する図です。景気は生産と在庫の状況により、以下の4つの局面を循環的に経験します。

(1)意図せざる在庫減局面(景気回復)
景気後退期から徐々に需要が回復し、生産の減少が緩やかになっていきます。生産の増加と貯まっていた在庫の消化で需要の回復に対応していきますが、過剰在庫も徐々に解消し、在庫の減少も緩やかになっていきます。

(2)在庫積み増し局面(景気拡大)
過剰在庫の解消が完了すると、今度は需要の拡大に合わせて生産を増やし、在庫を意図的に積み増すようになります。景気は良い状態ですが、生産前年比=在庫前年比となる直線(上図のオレンジ線)が景気のピークとなって徐々に生産の伸び率が鈍化し始めます。

(3)在庫積み上がり局面(景気減速)
景気がピークを迎え減速局面に入ると、生産しても需要が弱いため在庫が積み上がり、意図せざる在庫の増加が起こります。やがて生産は減少を始め、経済は過剰在庫に苦しむようになります。

(4)在庫調整局面(景気後退)
積み上がった在庫を解消するため、生産の減少が続きます。需要は弱く景気が悪い状態が続いていますが、徐々に在庫が減少し、生産も底をついて次の景気回復局面へと向かいます。

出所:経済産業省

 

4. 鉱工業生産の予測指数

先行きの生産指数を見ると、4月に前月比+3.1%と増加した後、4月には▲1.6%と減収する見込みです。

4月は汎用・業務用機械(ポンプや運搬装置など)や生産用機械(半導体製図装置など)などの設備投資関連で強い生産見通しが示されており、4月以降の設備投資意欲の高さが示唆されています。

4月生産計画の上昇業種
輸送機械工業、汎用・業務用機械工業、生産用機械工業、電機・情報通信機械工業、電子部品・デバイス工業、金属製品工業、石油製品工業、鉄鋼・非鉄金属工業

4月生産計画の下落業種
パルプ・紙・紙加工品工、化学工業

5月生産計画の上昇業種
金属製品工業、汎用・業務用機械工業、パルプ・紙・紙加工品工

5月生産計画の下落業種
電機・情報通信機械工業、石油製品工業、化学工業、電子部品・デバイス工業、鉄鋼・非鉄金属工業、生産用機械工業、輸送機械工業

 

5. 財別出荷指数の動向

設備投資の動向と連動する資本財は、2月の118.8から改善して122.5となりました。設備投資は引き続き増加トレンドにあります。

 

鉱工業生産の長期トレンド(キッチンサイクル)

以下は鉱工業生産指数を1979年から長期で見た図表です。

日本の生産は1991年までずっと右肩上がりで成長していきましたが、その後は循環的な上がり下がりを繰り返しながら横ばいで推移しています。

2002年2月から2008年2月までの73ヶ月間は「いざなみ景気」と呼ばれる景気拡大局面が戦後最長となった期間であり、その間は生産も右肩上がりで成長しました。しかしその後はリーマンショックで大きく下落し、現在もリーマンショック前の水準にまでは戻っていません。

キッチンサイクル(3~4年の在庫循環)

在庫循環が要因で起きる3~4年程度の景気循環のことを「キッチンサイクル」と呼びます。

以下のように、鉱工業生産の前年比の谷から谷までを1つのサイクルとして見ると、極端に短く終わっているサイクルを除くとだいたい40ヶ月前後で1つのサイクルとなっています。

鉱工業生産の前回の谷が2016年1月なので、現在のサイクルは既に27ヶ月目ということになります。キッチンサイクルから考えると今回のサイクルは既に後半に差し掛かっており、今後は生産がさらに減速していずれはマイナス転換し、今から約13ヶ月後にはまた生産が底を打つことになります。

 

鉱工業生産指数の概要

最後に、鉱工業生産という統計の概要についてまとめておきます。

鉱工業生産・出荷・在庫指数の概要

  • 概要:鉱工業(製造業と鉱業)の生産・出荷・在庫動向についての統計。
  • ヘッドライン:鉱工業生産指数の前月比、先行き2ヶ月分の生産予測指数
  • 発表:速報→翌月末の8時50分、確報→翌々月15日の13時30分
  • 出所:経済産業省
  • URL:http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/iip/index.html

鉱工業生産指数の読み方について詳細は以下の記事でまとめています。以下の記事を呼んでから実際の統計データを見ることで、理解がより深まると思います。

3分で分かる!日本の鉱工業生産を読むための基礎知識

  • この記事を書いた人

上原@投資家

「株式投資で人生を豊かにする方法」をテーマに情報発信しています。機関投資家の視点で最新のマーケット情報&投資ノウハウをお届け。【経歴】外資系金融で日本株アナリスト→外資系ファンドのファンドマネージャー→ニート【現在の投資先】日本株、米国株、新興国株、エンジェル投資、国内不動産、海外不動産、仮想通貨、NFT。

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