長期投資の王道は『千年投資の公理』でまず学ぶべき

バフェット流の長期投資の手法が学べる「千年投資の公理」という本をレビューします。

好調な業績を長期で維持できる「経済的な掘」を持つ企業を長期で保有することが本書のテーマです。企業に経済的な堀があり、かつ株式市場がその堀を過小評価している時、長期投資の機会が生まれます。

経済的な堀とは「ライバル会社から企業を守り、長期的な収益を獲得することで、投資家にとっての企業価値を高める」ものです。

もっと分かりやすい言葉で言い換えるなら「企業が長期的に超過利潤を得るための競争優位性」となるでしょうか。「長期的な」というのが肝でして、一見すると競争優位性に見えるものでも、他社が簡単にまねできるものでは経済的な堀と言うことはできません。

具体的に本書では、①無形資産、②コスト競争力、③高い乗り換えコスト、④ネットワーク効果、という4つの堀について詳しく解説されています。

当記事では、長期投資の王道的手法が学べる「千年投資の公理」について内容を詳細にまとめたいと思います。

成長企業とそうでない企業との違いはどこにあるのか。高成長を誇った企業がある日を境に突然失速するのはなぜなのか。良い投資先とそうでない投資先はどこで峻別されるべきなのか。株式投資家であれば、だれでも常にその答えを求めている。本書で詳説されている「経済的な堀」の概念はそのような問いかけに明確に答えている。

誤解されている堀

第2章では、一見すると経済的な堀に見えるものであっても実際には他社に簡単に真似されてしまう「幻の優位性」について解説しています。

経済的な堀は「長い時間をかけて構築されてきたビジネス上の構造」であるべきで、「ライバル企業による模倣が非常に難しい」というのが重要なポイントです。

①素晴らしい製品、②大きなマーケットシェア、③ムダのない業務執行、④優れた経営陣、等は誤解されている堀の代表的なものです。

これらの4つのポイントを持つ企業は魅力的な企業に見えてしまいますが、実際にはちゃんとした堀を持っていないことも多いです。

例えば高いマーケットシェアを持っていても、過去の歴史を振り返るとトップ企業が入れ替わることは何度も起きています。コダック、(フィルム)、IBM(パソコン)、ネットスケープ(ブラウザ)、GM(自動車)、コレル(ワープロソフト)等が一例です。

重要な点は企業が大きなシェアを持っていることではなく、そのシェアをどのようにして獲得したのかです。

業務執行についても、他社より効率化を図るのは素晴らしい戦略ですが、それが簡単にまねできない独自の過程に基づくものでなければ、継続的な優位性にはなりません。

それではどんな堀であれば企業に構造的な優位性をもたらすのでしょうか?

本書の中では以下の4つのポイントを挙げています

構造的な優位性を企業にもたらす4つのポイント
  1. 無形資産
  2. 顧客の乗り換えコスト
  3. ネットワーク効果
  4. コストの優位性

構造的な優位性を企業にもたらす4つの経済的な堀

経済的な堀その1「無形資産」

有名ブランドが必ずしも競争優位性になるとは限らない

ブランドが経済的な堀を築くのは、そのブランド名が消費者のさらなる支払い意欲を促すか、もしくはさらなる顧客を囲い込める場合に限られます。

ブランドが堀になるかどうかを考える時は、似たような競合製品よりもプレミアムを上乗せした価格で販売できるかどうかを考えます。

例えばソニーは有名ブランドですが、DVDプレイヤーを購入するためにサムスンやパナソニック製よりもソニー製品に消費者が高い価格を支払うかどうかを考えます。ティファニーは平均的なダイヤモンドを、きれいな青い箱に入れるだけで消費者により高い価格で売ることができます。

このようなケースで、ティファニーというブランドが経済的な堀と言えることになります。

特許は経済的な堀を生み出すが、優位性が必ずしも永遠に続くわけではない

利益を少数の特許に頼る企業にとって、特許切れや弁護士からの申し立てがリスク要因となります。

特許が継続的な優位性をもたらしてくれるのは、様々な特許製品に関して企業が改良を重ね、その実績が継続する場合に限られます。

例えばスリーエムは何千もの特許を使って何百もの製品を生産していますし、メルクやイーライ・リリーなどの大手製薬会社も同じです。

行政の認可も長期的な優位性を生み出す無形資産

もし規制されずに独占企業のような価格設定ができる企業を見つけることができれば、その企業には経済的な大きな堀がある可能性があります。

債券格付け会社や、スロットマシンの会社が良い例です。スロットマシン業界は悪徳業者が不正操作で私腹を肥やすことを防止するため、厳しく統制されています。米国のスロットマシン業界で注目すべき企業は4社のみで、長年新規参入はありません。

経済的な堀その2「乗り換えコスト」

顧客がライバル社の製品やサービスに切り替えるのが大変な時、その企業には乗り換えコストという観点で優位性があります。

乗り換えコストには様々な形態があります。以下がその一例です。

高い乗り換えコストの事例
  1. 顧客の事業に密接にかかわる(会計ソフトのインテュイット、巨大データベースを販売するオラクス)
  2. 金銭的な面(農村部へのプロパンガス供給事業、医療用機器)
  3. 再訓練(フォトショップを提供するAdobe)

小売業やレストラン、包装業界など、消費者志向の企業は乗り換えコストの低さが弱点となりやすいです。

経済的な堀その3「ネットワーク効果」

ユーザー数の増加が製品やサービスの価値向上につながる時、企業はネットワーク効果の恩恵を受けます。

クレジットカード、オンラインオークション、一部の金融取引所等がその好例です。アメリカ国内のクレジットカード市場は、ビザ、マスター、アメックス、ディスカバーの4つのネットワークだけで全米の消費の85%を占めています。

ネットワーク効果は極めて強力な競争優位性をもたらし、情報を共有したりユーザー同士をつないだりする事業によく見られます。逆に、物理的な物を扱う事業ではあまり見かけません。

ネットワーク効果の恩恵を受ける企業の数は決して多くありません。著者のパット氏が調査をした結果、ダウ銘柄の中で競争優位性の大部分をネットワーク効果が占めている企業は、アメックスマイクロソフトしか見つかりませんでした。

経済的な堀その4「コストの優位性」

コスト競争力は「価格弾力性が高い業界」で重要

コストの優位性は、①安い製造過程②有利な場所③独自の資産④規模の大きさ、という4つの要因があります。

製造過程での優位性は、その優位性が長期間持続することはありません。ある企業が製品を低コストで提供する方法を見つければ、ライバル企業もその方法をまねすることで同じコスト構造を手に入れることができます。

有利な場所による優位性は、簡単にまねをすることが難しいため、プロセスによる優位性よりも耐久性があります。重くて安く、生産地の近くで消費されるコモディティに最もよく見られます。

製造過程による優位性は長く継続しない可能性がありますが、場所による優位性や独自の資産による優位性は長く続いて信頼することができます。場所的な優位性を持つ企業は小さな独占企業になっている場合が多く、独自の資産を持つ企業は例えば世界的な天然資源の鉱床を所有していれば、それに代わる優位性を探すのは難しいです。

規模の経済は限界利益率の高い業界だと効果が出やすい

規模の優位性を理解するためには、固定費と変動費の違いを考える必要があります。

固定費の割合が変動費よりも高ければ、規模のメリットが大きく、その業界は統合に向かう傾向があります。(つまり、限界利益率が高い業界ほど規模の経済が効きます。)

全国規模の宅配業者や自動車メーカー、マイクロチップ生産者は数社しかないのに対し、小規模の不動産業者やコンサルタント、法律事務所や会計事務所は何千とあります。これは大規模な事務所が小規模の事務所に対してコスト優位性が生まれないためです。

規模によるコスト優位性は、販売、製造、ニッチ市場の3分野に分けることができます。

堀が他社に浸食される2つのケース

堀が他社に浸食されるのは「技術的な変化」と「業界構造の変化」の2ケースがあります。

技術的な変化によって堀が浸食される

ハイテク業界では、ライバル社に技術で追い抜かれることがよくあります。

ハイテク業界では同業者の製品よりも「良いか速いか安い製品」が勝ちます。自社製品よりも優れた製品を他社が開発した場合、優位性が数か月で消滅してしまうリスクがあるのです。

技術の変化によって堀が浸食された例はたくさんあります。

  • イーストマンコダックの写真用フィルムはデジカメに競争優位性を奪われました。
  • 新聞や電話会社は、インターネットの登場によって収益性が悪化しています。

業界構造の変化による堀の浸食

業界の構造変化も企業の競争優位性に大きなダメージを与える可能性があります。例えば、ウォルマートなどの大規模小売店の出現が、多くの消費者向けメーカーの収益性を悪化させました。

成長によって堀が侵食されることもあります。特に、企業が堀のない分野への成長を進めることで、自らの手で優位性を損なうケースが多いです。

好例はマイクロソフトです。コアビジネスのOSと事務用ソフト以外への拡大を試みたため、株価は低迷しました。ズーン(音楽プレイヤー)、MSN、MSNBC等が不必要な拡大の事例です。

企業は得意分野で大きな利益を上げるべきで、堀のない不確かな事業に投じるぐらいならば、残った資金は株主に還元した方が良いです。

堀を作りやすい業界と作りにくい業界

競争優位性を作りやすい業界

例えばテクノロジーセクターでは、ソフトウェア会社の方がハードウェア会社よりも堀が作りやすいです。

ソフトウェアは顧客の囲い込みと高い乗り換えコストを実現しやすいです。しかし、ハードウェアは業界標準に合わせて製造されるため、簡単に他社製品と取り換えられてしまうためです。

テレコムセクターやヘルスケア企業には、規制による堀ができやすいです。

中でもヘルスケア製品を販売する会社の方が、ヘルスケアサービスを提供する組織よりも堀が多く見つかります。これは長年にわたる研究と認可を経て上市される医療製品に比べて、医療サービスの帝京は差別化が難しいからでしょう。

消費財はウォーレン・バフェットが言うところの「必要不可欠なもの」で、コカ・コーラ、コルゲート・パルモリーブ、リグレー、P&Gなどの企業には永続性のあるブランド価値があります。このセクターも堀が見つかりやすい分野ですが、ブランド価値が一時的でしかない企業や、スーパーなどのプライベートブランドに脅かされる企業、安い労働力によって業界の採算性が変わってしまう分野には気を付ける必要があります。

競争優位性を築きにくい業界

一方で、レストランや小売業など消費者に直接サービスを提供する企業は、乗り換えコストが安いため競争上の優位性を築くのが非常に難しいです。

また、素材セクターにも堀がある企業は少ないです。製品の差別化が難しく価格が顧客にとっての決め手となりやすいためです。コモディティ産業で本当にコスト競争力を維持できる企業は2~3社程度しかありません。

但し、素材セクターの場合は景気循環に合わせて売り買いがされるため、景気の悪化に伴い数少ない堀のある企業も売られた場合、そこに投資機会が生まれます。

企業の「経済的な堀」を見極める3つのステップ

  1. 過去の高いROCを維持できているかどうかを見る
  2. 競争上の優位性(高い乗り換えコスト、ネットワーク効果、コスト競争力、無形資産)があるかを見る
  3. 競争上の優位性がどのくらい強力か、長期にわたって維持可能かを考える。

保有している株式を売るタイミング

次の4つの質問に対し、1つでもイエスの答えがある場合はすぐに売る必要があります。

  • 自分は間違っているか。
  • その企業のファンダメンタルズは悪化しているか。
  • 他にもっと良い投資先があるか。
  • このポジションがポートフォリオの中で大きくなりすぎていないか。

まとめ

バフェットも「自分の理解できる企業に投資する」と言っていますが、その企業の強みがちゃんと理解できないまま投資するのは非常にリスクが高いです。

投資先を選ぶ際に「①無形資産、②コスト競争力、③高い乗り換えコスト、④ネットワーク効果」という4つの視点を持つことで、「なんとなく良さそう」という気分に左右される投資を防ぐことができます。

(1)持続可能な競争優位性を持つ企業を、(2)割安な株価で買い、(3)長期で保有する。

バフェット流投資の中でも、「競争優位性を見極める」とう点に集中してより具体的に解説された良著でした。

成長企業とそうでない企業との違いはどこにあるのか。高成長を誇った企業がある日を境に突然失速するのはなぜなのか。良い投資先とそうでない投資先はどこで峻別されるべきなのか。株式投資家であれば、だれでも常にその答えを求めている。本書で詳説されている「経済的な堀」の概念はそのような問いかけに明確に答えている。
「千年投資の公理」の目次

第1章:経済的な堀:経済的な堀の定義とそれを使って優れた株を選択するための方法
第2章:誤解されている堀:幻の優位性にだまされるな
第3章:無形資産:棚から取り出せるものではないが、間違いなく価値がある
第4章:乗り換えコスト:しつこい顧客は面倒ではなく黄金だと思え
第5章:ネットワーク効果:非常に強力で、一章を割く価値がある
第6章:コストの優位性:賢くなるか、地理的に近くなるか、ユニークになれ
第7章:規模の優位性:きちんと把握していれば、大きいことは良いことだ
第8章:浸食される堀:優位性を失って立ち上がれない
第9章:堀を探す:外はジャングルだ
第10章:ビッグボス:経営陣の影響は思ったほど大きくない
第11章:肝心なこと:比較分析の五つの例
第12章:堀の価値はどのくらいか:最高の企業でも買値が高すぎればポートフォリオを傷つける
第13章:評価のためのツール:割安株を探す
第14章:いつ売るか:賢い売りが高リターンにつながる