【詳細解説】パワー半導体の基礎知識と市場見通し




パワー半導体は自動車や家電、FAなど様々で需要が伸びており、長期的に成長が見込める分野です。そして、パワー半導体は日系企業がまだ競争力を持っている市場でもあります。

そんなパワー半導体について、基礎知識から市場見通し、各社の取り組みなどをまとめてみました。

パワー半導体の基礎知識

パワー半導体とは、電力を直流から交流に変換したり、電圧を上げ下げしたりする役割を持つ半導体です。

パワー半導体が電力の制御や供給を行うことで、パソコンやテレビなどの各機器に、電源から最適な形で電力を供給することができるようになります。

人の体に例えると、センサーが目や耳の役割として情報を収集し、CPUやメモリーが頭脳として計算や記憶を行います。そして、パワー半導体は、食べ物をエネルギーに変換する胃や腸の役割に加えて、血液を全身に送り出す心臓のような役割を持っていると言えます。

パワー半導体の4つの役割

電力の制御や変換を行うのがパワー半導体の役割ですが、さらに細かく見てみると、4つの機能に分けることができます。

  • コンバータ(整流):交流の電気を直流に変換する
  • 周波数変換:交流の周波数を変換する
  • レギュレータ:直流の電圧を変換する
  • インバータ:直流の電気を交流に変換する
パワー半導体の役割

出所:サンケン電気

パワー半導体の使われ方:インバータ搭載エアコンの例

パワー半導体は家電、パソコン、自動車、鉄道などあらゆる機器に使われていますが「インバータ搭載エアコン」を例に挙げて、パワー半導体の具体的な使われ方を紹介します。

インバータが搭載されていないエアコンの場合、モーターの制御はオンにするかオフにするかに二択しかありません。つまり、モーターはフルパワーで回転するか回転を止めるかの二択だけで、モーターの回転数を連続的に変化させることはできません。

なので、インバータが搭載されていないエアコンで温度調節をしようとすると、「設定した温度まで冷やす→設定温度に到達したら運転をやめる→温度が上がったらまた運転して冷やす」というプロセスで温度調節をすることになります。
 

エアコンで使われるモーターの回転数は、交流電力の周波数で決まります。周波数を高めると回転数が速くなり、周波数を低くすると回転数が遅くなります。

エアコンにインバータを搭載するとモーターの回転数を自由に制御できるようになり、「設定温度になるまではモーターを高速回転させる→設定温度に近づいてきたらモーターを低速運転に切り替える」というプロセスで消費電力を抑えることができます。

ダイキンのホームページによると、インバータ搭載のエアコンはインバータなしのエアコンと比べて消費電力が58%も少なくなるようです。

インバータによるエアコンの消費電力削減

出所:ダイキン
 

「直流を交流に変換する役割を持つインバータでどうやってモーターの回転数を制御するの?」と疑問に思われた方は、以下の資料で原理がわかりやすく解説されています。

省エネはやっぱりインバータ(三菱電機)

 

ちなみに、インバータが搭載された家庭用エアコンは、東芝が1981年12月に世界で初めて発売しました。

日米欧の先進国ではほとんどすべてのエアコンにインバータが搭載されていますが、中国やアジアではまだインバータが搭載されていないエアコンもたくさん使われています。

新興国のエアコンでも省エネに対するニーズは高まっており、インバータ搭載比率の増加はパワー半導体の需要ドライバーの1つでもあります。

図:ルームエアコンのインバータ搭載比率(2017年)
ルームエアコンのインバータ搭載比率

出所:JRAIA
 

パワー半導体市場の成長見通し

以下の表は、富士経済が2018年3月に出したパワー半導体の市場見通しです。

パワー半導体の市場見通し

出所:富士経済

パワー半導体の世界市場規模は2017年で2兆7,192億円でした。今後は、家電の省エネ化や自動車の電装化が成長ドライバーとなって、2030年には4兆6,798億円まで拡大すると見込まれています。年率換算で4%の成長率が見込まれていることになります。

まだ市場規模はあまり大きくありませんが、次世代パワー半導体(SiCとGaN)は特に高い成長が期待されています。
 

次世代パワー半導体への期待

Siパワー半導体の性能限界と次世代パワー半導体への期待

現在のパワー半導体の材料はシリコン(Si)が主流となっていますが、メーカー各社はシリコンウェハをより薄く加工することで、パワー半導体の性能を向上させてきました。

しかし、現在のシリコン製のパワー半導体は理論的な性能限界に近づいているため(もうこれ以上薄くできない)、シリコンを使い続ける限り、パワー半導体の性能を上げることが難しくなってきています。

そこで次世代のパワー半導体として注目されている材料がSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)です。

たとえばSiCを使うと、Siと比べてパワー半導体による電力損失を70~90%も削減できます。さらに高温での動作も可能になるため、冷却装置を小型化することもでき、デバイスの小型化につながります。

SiCを使ったパワー半導体は鉄道やエアコンなどで徐々に使われ始めていますが、将来的には自動車分野で大きな成長が見込まれています。

次世代パワー半導体(SiC、GaN)の使い分け

SiCパワー半導体は高耐圧に耐えられるため、現在IGBTが使われている家電製品やエコカー、産業用機械などの大電力用で採用が見込まれています。

それに対してGaNパワー半導体は耐圧は低いものの高周波対応が可能であるため、現在MOSFETが使われているスマホやパソコン電源などの小電力用で採用が期待されています。

次世代パワー半導体のポジショニング

出所:Yole

次世代パワー半導体の普及がなかなか進まない理由

しかし富士経済の推定によると、SiCとGaNを使ったパワー半導体の市場規模は2017年でまだ300億円以下しかありません。

その理由は、SiCとGaNのウェハ加工が難しく、コストが非常に高いことです。

例えばSiCの場合、パワー半導体メーカーはSiCウェハを外部から買ってくるか、自社で内製する必要があります。

6インチウェハの価格で比較すると、シリコンウェハは1枚3千円程度であるのに対して、SiCウェハは12万円もします。そして、GaNウェハはSiCウェハのさらに10倍以上の価格です。

SiCウェハは製造難易度が高くてなかなか価格が下がらないため、次世代パワー半導体の普及見通しは年々引き下げられているのが現状です。

GaNについてはSiCよりもさらに技術難易度が高いため、SiC以上に市場拡大のタイミングが遅れています。

SiCパワー半導体の市場見通し

以下は、半導体市場調査会社であるYoleが公開したSiCデバイス市場の予測です。

SiCデバイス市場の予測

出所:Yole

Yoleよれば、2019年が転換点となり、2020年以降は年平均40%でSiCデバイスの市場が拡大すると見込まれています。

現在のSiC市場をけん引しているのはPFC(整流器)/電源や太陽光発電インバータなどですが、将来的には電気自動車関連のアプリケーションがSiC市場の成長ドライバーとなる見込みです。
 

パワー半導体の市場シェア

7月2日の日経新聞に、パワー半導体の世界シェア(出所はIHS)が掲載されていました。

パワー半導体の世界シェア

出所:日経新聞

パワー半導体市場では、3位に三菱電機、4位に東芝、6位に富士電機と日系メーカーがまだまだ頑張っています。

なぜ日系メーカーがパワー半導体市場で強いのか?

日系メーカーがパワー半導体でまだ競争力を保てているにはいくつかの理由があります。

まず、日系メーカーはエアコンや自動車、ロボット、鉄道などのパワー半導体がよく使われる分野でシェアが高いため、パワー半導体メーカーが顧客のニーズをつかみやすかったというのが1つ目の理由として挙げられます。

日本は省エネに対する要求水準も厳しいため、日本のパワー半導体メーカーは顧客と一緒に省エネ化を実現してきたノウハウが蓄積されています。
 

また、パワー半導体は半導体メモリとは異なり、カスタマイズ性が強いことも日系メーカーのシェアが高い理由になっています。

パワー半導体の供給方法にはいくつか種類があります。

1つの半導体素子(トランジスタやダイオード)だけをパッケージングした「ディスクリート(1つの機能のみを備えた単純な半導体のこと)」での供給が最もシンプルな方法ですが、最近では複数のディスクリートを組み合わせてパッケージングした「モジュール」での供給が増えています。

モジュールとしてパワー半導体を提供するときは、顧客やアプリケーションごとのニーズに合わせてカスタマイズする必要があるため、設計の際に顧客と密にコミュニケーションをとる必要があります。これはすりあわせを得意とする日系メーカーに強みがある部分です。
 

IGBTの市場見通しと世界シェア

パワー半導体の3つの種類

パワー半導体は次の3つの種類に分けられます。

  • バイポーラトランジスタ:最も構造がシンプルで、より大きな電力を扱えるのが強み。ただし、スイッチング動作をするために必要な電力が大きく、スイッチング速度も遅い。
  • MOSFET(金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ):スイッチング速度は3種類の中で最も速いが、大きな電力を扱いにくいため、携帯電話やパソコン電源などの小電力用に使われる。
  • IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ):バイポーラトランジスタとMOSFETを組み合わせたような構造をしている。MOSFETと比べるとスイッチング速度は遅いが、耐電圧性能が高く、大きな電流を流したときの電力損失が小さい。家電製品やエコカー、産業用機械などの大電力用に使われる。

これら3種類のパワー半導体のうち特にIGBTは、家電の省エネ化(インバータ搭載率の増加)や自動車の電動化(ハイブリッド車や電気自動車の普及)、FA(ファクトリーオートメーション)の需要拡大などがドライバーとなって、最も高い成長率が期待されています。
 

注:パワー半導体におけるスイッチングとは?
パワー半導体は電源回路でオンとオフを繰り返す(電流を流したり止めたりする)ことで電力を変換しています。理想的なパワー半導体とは、このスイッチとしての役割が完ぺきなもの、つまりオンの時の電気抵抗がゼロで、オフの時の電気抵抗が無限大になることです。それに加えて、このオンとオフの切り替えスピードが速く、電力の損失も発熱も全く発生しないことが理想的なパワー半導体となります。

IGBT市場の成長見通し

以下は三菱電機の事業説明会のプレゼン資料ですが、IGBTモジュールに限ってみると、市場規模は年率6%とパワー半導体全体の市場よりも早く成長する見込みです。

IGBTモジュールの市場見通し

出所:三菱電機

上のグラフから読み取ると、IGBTモジュールの市場規模は2017年で3,700億円ぐらいのようなので、パワー半導体市場2兆7,192億円のうち15%弱を占めていることになります。

IGBTの市場シェア(全体シェアと製品別シェア)

パワー半導体全体で見ると三菱電機も富士電機も市場シェアは10%以下です。

しかしIGBT市場だけの市場シェアを見ると、三菱電機と富士電機がそれぞれ世界2位、3位のシェアを持っています。

IGBTの市場シェア

出所:Infineonアニュアルレポート
 

以下の図は、IGBT市場における市場シェアを製品別にさらに細かく分解したものです。

IGBTの製品区分別の市場シェア

出所:Infineon

通常のIGBTモジュール(市場規模18.8億ドル)とIGBTディスクリート(市場規模9.3億ドル)ではInfineonの世界シェアがトップですが、IGBTモジュールの応用製品であるIPM(インテリジェント・パワー・モジュール)という製品(市場規模11.9億ドル)では三菱電機の世界シェアが約40%でトップとなります。

IPMとは、IGBTの制御回路や保護回路を内蔵したモジュールです。IPMを使うことによって回路設計時間が短縮できたり、信頼性が向上するというメリットがあるため、家電や電気自動車で積極的に採用が拡大しています。

IGBTの市場シェア(電圧別)

IGBTの市場シェアを電圧別に見たのが以下の表です。

IGBTの主流である中電圧(600~1,700V)ではInfineonのシェアが1位ですが、低電圧(400V以下)ではON Semiconductorが1位、高電圧(2,500V以上)では三菱電機が1位となっています。

IGBTの電圧別市場シェア

出所:Yole

IGBT市場ではInfineonの市場シェアが拡大中

IGBT市場は三菱電機と富士電機が注力していて、相対的に競争力がある分野でもあるんですが、過去の市場動向を見ると、Infineonがシェアを継続して上げてきているようです。

図:IGBTモジュールの市場規模とInfineonの市場シェアの推移
IGBTモジュールの市場規模とInfineonの市場シェアの推移

図:IGBTディスクリートの市場規模とInfineonの市場シェアの推移

以下は2012年の電子デバイス産業新聞に掲載されていたIGBTの市場シェアです。

出所:電子デバイス産業新聞

2012年ではまだ三菱電機がIGBTでトップシェアを持っていたようですが、企業買収などを経て、今ではInfineonが世界トップになっているようです。
 

パワー半導体に対する各社の取り組み

最後に、パワー半導体市場でシェアが高い三菱電機と富士電機の取り組みについて簡単にまとめておきます。

三菱電機のパワー半導体事業

三菱電機のパワー半導体事業については、2017年11月に開催された事業説明会の資料に詳細に書かれています。

パワー半導体が含まれるパワーデバイス事業は、三菱電機のセグメントでは電子デバイス部門の中に含まれています。

2017年度におけるパワーデバイス事業の売上高は1,300億円。これを2022年度までに売上高2,000億円、営業利益率10%まで成長させることが三菱電機の経営目標です。

パワー半導体の市場成長率6%を上回る10%の年率成長を期待していることになります。

この目標を達成するために三菱電機は2018年度、熊本県や中国にある主力工場を中心に約100億円を投資して生産能力を拡大する計画です。

富士電機のパワー半導体事業

富士電機のパワー半導体事業については、2018年5月に開催された事業説明会の資料に詳細に書かれています。

2017年度におけるパワーデバイス事業の売上高は1,075億円。これを2023年度までに売上高1,500億円まで成長させることが富士電機の経営目標です。

富士電機の投資計画は三菱電機よりも大きく、2018年度中に200億円を投資して国内工場の能力を拡大する計画です。2020年度以降も追加で300億円を投資する計画もあるようです。
 

パワー半導体に関する参考資料

パワー半導体の基礎知識、業界構造

財界観測2018年4月号「パワー半導体業界 –電動化により成長加速-」(野村証券)

日経新聞:半導体 EV用に増産投資

「超入門」いまさら聞けない半導体技術:パワー半導体の基礎知識

パワー半導体:電化製品に欠かせない電力コントロールのスイッチ!?(東芝)

IGBT の基礎とトラブル対策

次世代パワー半導体について

ローム:次世代パワー半導体のインパクト

ローム:次世代パワー半導体の最新市場動向

筑波大学:SiC・GaNパワー半導体の最新技術・課題ならびにデバイス評価技術の重要性(岩室教授)

Infineonのパワー半導体事業のプレゼンテーション(2018年6月)

2016年のパワー半導体市場は前年比3.8%増の280億ドルに到達 – Yole調べ

SiCデバイス市場は2022年に10億ドル規模に成長 – Yole予測

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