BitMEX固有の投資指標である「資金調達率」について、その中身や計算方法、トレードへの活用方法を徹底解説していきます。
記事の後半では資金調達率のもとになる「BitMEXプレミアム」をTradingviewのチャートに表示させる方法も紹介しています。
BitMEXの資金調達率(Funding Rate)とは?
まずは大前提として、BitMEXの資金調達率について基礎知識を解説します。
資金調達率とは何なのか?何のために存在するのか?というお話です。
詳しい計算方法やトレードへの活用方法を知りたい人は、この章は読み飛ばして次の章に進んでください。
資金調達率はBitMEX内の需給を調整している
そもそもBitMEXでビットコインを買っても、売り手と買い手の間で現物のビットコインのやり取りは行われていません。
BitMEXでは「この価格でビットコインを買いましたよ、売りましたよ」という契約がやり取りされているだけで、そこに現物資産であるビットコインの交換は一切行われていません。
BitMEXでの取引価格はBitMEX内での売りたい人と買いたい人の需給で決まります。
需給だけで取引価格が決まるのであればBitMEX価格が原資産の価格(他の取引所のビットコイン価格)から大きく乖離することも起こりそうですが、実際にはそうはならずに他の取引所と近い価格水準で取引されています。
BitMEX価格を他の取引所の価格と近い水準になるように調整する仕組みが、これから解説する資金調達率です。
資金調達率の変動によってBitMEX内の需給が調整され、結果的にBitMEX価格が現物価格と連動することになります。
BitMEXの資金調達率とは?
BitMEXでは、「BitMEXでの取引価格」と「他の取引所での現物価格」の乖離率に応じてロンガーとショーターの間で手数料のやり取りが行われます。
この手数料の金額を決めるのが資金調達率で、「手数料=ポジション価額×資金調達率」となります。
資金調達率がプラスの場合、ロング側がショート側に手数料を支払います。逆に資金調達率がマイナスの場合はショート側が手数料を支払うことになります。
ロングが増えてBitMEX価格が他の取引所の価格よりも高くなった場合、ロング側が支払う手数料を高くして(資金調達率が高くなって)、BitMEX内でのロングとショートの需給が調整されます。
資金調達率に基づいた手数料のやり取りは8時間おき(日本時間の5時、13時、21時)に行われます。
また、資金調達率の幅は「最小▲0.375%~最大0.375%」と決まっています。
資金調達率の確認方法
資金調達率の水準は、「BitMEXの取引画面」か「DECOBOARDという無料サービス」で確認するのが手っ取り早いです。
BitMEXで資金調達率を確認する
BitMEXでは取引画面の左下に以下のように資金調達率が表示されます。
上の写真の場合、6時間後にロング側とショート側で手数料のやり取りが行われて、その時の資金調達率は-0.0374%(ショート側が手数料を支払う)になることを意味してます。
また、以下のページでは資金調達率の過去実績を確認することができます。
DECOBOARDで資金調達率を確認する
DECOBOARDは、ビットフライヤーFX、BitMEX、Bitfinexの板情報をリアルタイムで見れる無料サービスです。
超便利なサービスなので必ずブックマークに登録しておきましょう。
DECOBOARDにはBitMEXの資金調達率のように各取引所固有の指標が表示されています。
上の図の緑色で囲まれた部分がBitMEXの資金調達率です。
上の図からは、①次回の手数料やり取りは6時間3分後、②その時の資金調達率は-0.0374%、③次々回の資金調達率の予測値は-0.0106%、という3つの情報が分かります。
②の次回の資金調達率は、前回の資金調達が行われたタイミングで確定し、その後はずっと動きません。
例えば21時の手数料のやり取りでの資金調達率は、5時~13時の価格乖離率の平均をもとに13時に確定します。
一方で③の次々回の予測値は、BitMEX価格と他の取引所価格の乖離率によって時々刻々と変化します。
DECOBOARDの使い方や各指標の見方については以下のnoteを参考にしてください。
[最速]bitFlyer/BitMEX/Bitfinexの板情報を一覧できる"DECOBOARD"
[新機能追加]DECOBOARDで実践する!取引所特有の指標を使ってトレード勝率アップ!
以上が資金調達率の基礎知識です。
ここまでの内容を簡単にまとめます。
- BitMEXでは、BitMEX価格と他の取引所の価格の乖離率をもとに資金調達率が計算され、ロング側とショート側で手数料のやり取りが行われる
- 資金調達率がプラスの時はロング側が手数料を支払い、マイナスの時はショート側が手数料を支払う
- 手数料のやり取りは8時間おき(日本時間の5時、13時、21時)に行われる
- 資金調達率は「▲0.375%~0.375%」の間で変動する
- 資金調達率の確認はBitMEXの取引画面かDECOBOARDが便利
資金調達率の算出方法
ここからは資金調達率の計算方法を詳しく見ていきます。
資金調達率の計算方法についてはBitMEXの無期限契約ガイドとXBTUSDの契約明細に詳しく書かれていますが、内容が難しいので当記事ではもっと噛み砕いて分かりやすく説明したいと思います。
資金調達率は金利とプレミアム/ディスカウントの水準によって決まる
資金調達率は「①金利」と「(2)プレミアム/ディスカウント」という2つの要素によって決まります。
それぞれの要素がどのように決まるのか見ていきましょう。
①金利の計算
まず、金利の要素は以下の式で計算されます。
※3で割っているのは、資金調達が1日3回行われているため
米ドル金利はドルを借りてビットコインを購入する時にかかるコストで、BTC金利は購入したビットコインを市場に貸し出した時に受け取れる金利収入となります。
つまり、「金利=(米ドル金利-BTC金利)÷3」という式は「(ロングするのにかかるコスト)-(ロングしたビットコインを貸し出して得られる金利収入)」を表します。
各金利の水準は2017年5月以降はずっと固定されており、米ドル金利は0.06%、BTC金利は0.03%となっています。
つまり、資金調達率の計算に使われる金利は2017年5月以降はずっと(0.06%-0.03%)÷3=0.01%に固定されています。
金利 | 詳細ページ | 水準 |
---|---|---|
米ドル金利 | USDBON8H | 0.06% |
BTC金利 | XBTBON8H | 0.03% |
※2019年1月時点のデータ
それぞれの金利水準はBitMEXの契約明細のページにデータが載っています(米ドル金利はこちらのページ、BTC金利はこちらのページに詳細なデータあり)。また、Tradingviewでも米ドル金利は「USDBON8H」、BTC金利は「XBTBON8H」というティッカーで調べることができます。
②プレミアムインデックスの計算
続いてプレミアムインデックスの解説です。
プレミアムインデックスはTradingviewで「XBTUSDPI8H」というティッカーを調べると過去のデータを見ることができます。
計算方法についてはこちらのページで公表されています。
プレミアムインデックス(XBTUSDPI8H)はBitMEX価格のプレミアム(XBTUSDPI)の8時間TWAPです。
プレミアムの計算式はやや複雑なので詳細は省きますが、BitMEX価格と他の取引所の価格との乖離幅を表すと理解しておいてください。
他の取引所というのはこちらのページに記載があるようにBitstamp、Coinbase Pro、Krakenの3つの取引価格の平均です。
プレミアムの計算方法についてはBitMEXの公式よりもこちらのnoteが分かりやすいです。
③資金調達率を計算する
ここまでで金利とプレミアムの値をそれぞれ得ることができました。
- 金利=(米ドル金利-BTC金利)÷3=(0.06%-0.03%)÷3=0.01%
- プレミアムインデックス=ティッカーコードXBTUSDPI8H(BitMEX価格と他の取引所の価格との乖離を表す)
これらの値を元に、資金調達率は以下の式で計算されます。
clamp(金利-プレミアムインデックス, 0.05%, -0.05%)というのは「金利-プレミアムインデックス」の計算結果が0.05%以上の場合は0.05%、-0.05%以下の場合は-0.05%、-0.05%~0.05%の間の場合は計算結果がそのまま返されます。
例えば、XBTUSDPI8Hのページに今アクセスすると、プレミアムインデックスの直近の値は「-0.0245%」となっています。
金利は0.01%で固定なので、資金調達率は以下のように計算されます。
実際にDECOBOARDで確認すると資金調達率は0.01%となっています。
資金調達率をトレードに活かす方法
ここまで資金調達率の基礎知識と計算方法について解説してきましたが、ここからは肝心の資金調達率をトレードに活かす方法について書いていきます。
最初に話の腰を折る形になってしまいますが、資金調達率とBitMEX価格には、明確な相関関係はありません。
これはUKIさんが分析結果をツイートしてくれています。
まずはMEX FRから。一般的な考え方としてFR>0のときはショートにfeeが付与されることからショート側にインセンティブが存在する(FR<0は逆)。これが実際に数値的傾向として現れるか。
添付図はMEX FRと1時間足リターン%の散布図。残念ながらこの考えは利益と結び付くとは言えないようだ。 pic.twitter.com/zGJLGIrtyI— UKI (@blog_uki) 2019年1月24日
上記の分析のように、単純に資金調達率の水準だけ見てトレードをしても勝つことはできません。
資金調達率はあくまでも「BitMEX価格が他の取引所の価格に対してどれぐらい乖離してるのか」、つまり「BitMEX内でのマーケットの加熱具合」を知るための指標です。
資金調達率を通じてロングとショートの需給や加熱具合を見定めて、他の投資指標と組み合わせながら投資戦略を考えるのが有効となります。
BitMEXの資金調達率以外にも、ビットフライヤーFXの価格乖離率やBitfinexの貸出金利(FRR)、クソポジチェッカーも一緒に見ると市場全体の需給や加熱具合が見えてきます。
現在のロングとショートの加熱具合はDECOBOARDの「次々回の資金調達率」を見れば分かります。
これが大きくプラスの場合、それだけロングが加熱してBitMEX価格が他の取引所よりも高くなっていることを意味します。
つまり、次々回の資金調達率までに手数料を払いたくない人のロングポジションの決済や、価格乖離を埋めるようなロングの利確といった売り圧力がこれから出てくる可能性があるわけです。
BitMEXプレミアムをTradingviewで表示する
わざわざ資金調達率を見なくてもTradingviewでBitMEX価格のプレミアム(他の取引所の価格からの乖離率)を表示させれば、BitMEX内での加熱具合をチャート上で見ることができます。
こんな感じです。
上のチャートの下側に表示されているのがBitMEXのプレミアムです。
青い線がBitMEXのプレミアムで、緑とオレンジのバーがプレミアムの変化幅です。緑色がプレミアム拡大、オレンジ色がプレミアム縮小を表しています。
このプレミアムが大きくプラスになったとき、あるいは緑色のバーが何個も連続で表示されているときはBitMEX内でロング側が加熱している可能性がありますので、その後の売り圧力につながる可能性があります。
逆にプレミアムのマイナスが大きくなったときは現物取引と比較してBitMEXのショートが加熱している状況ですので、行き過ぎた下落からの反発が起きる可能性があります。
上のチャートのようにBitMEXプレミアムが-0.03%を超えてマイナスになった後は、BitMEXの価格が反発することが多いです。
上記のプレミアムを表示させるためのPineコードはこちらのnoteで公開していますので、よかったら参考にしてみてください。