企業の決算を増減要因で評価する方法

利益の増減要因の分析とは?

決算発表後に株価が上がるか下がるかは、決算の良し悪しにかかっています。そして良い決算の条件とは、「利益が期待値(コンセンサス)を上回ること」です。利益がコンセンサスを下回る悪い決算の場合、株価は発表後に下がることが多いです。

良い決算か悪い決算かは利益をコンセンサスと比較することで判断できます。しかし、どのようにして良い決算になったのか、その背景は利益の数字を見ただけではわかりません。

そこでアナリストがよく使う分析手法が、「利益の増減要因分析」です。これは利益の前年同期からの変動を、要因別に分ける分析手法です。前期からの利益変動を要因別に分解することで、なぜそのような利益で着地したのかを知ることができます。

以下は主な利益の変動要因です。

・営業利益の主な増減要因
売上高の増減に関する要因:数量、価格、ミックス、為替
コストの増減に関する要因:変動費、固定費、為替

例えば、「2014年度の営業利益は前期比350億円増益の4,700億円となった。」
という決算があった場合、前期比350億円の増益額を数量要因や価格要因、コスト要因に分解するのが増減益要因の分析です。

製造業の決算説明会資料ではよく営業利益の増減要因が開示されています。例えば、以下のウォーターフォールチャートはトヨタ自動車の14年度の営業利益の増減要因です。

図:トヨタ自動車の14年度営業利益の増減要因
Profit_Analysis007
(出所:トヨタ自動車の決算資料)

以下では具体的な例を挙げて、増減益要因の分析方法を解説します。

増減益要因の具体例

前期の売上高が50億円、営業利益が5億円(利益率10%)の企業Aがあるとします。表1のような様々な要因により企業Aの今期の業績が売上高62.4億円(24.5%の増収)、営業利益7.4億円(48.0%の増益)になった場合の、営業利益の増減益要因を分解してみます。

表1:企業Aの前期と今期の業績サマリー
Profit_Analysis001

①売上高を変化させる2つの要因:数量要因と価格・MIX要因

販売数量は前期100千個から今期120千個に、販売単価は50千円/個から52千円/個に増加しました。

数量と単価の変動によって売上高は12.4億円の増収となりましたが、これは
①「販売数量の増加による増収(数量要因)」、
②「その他の要因による増収(価格・MIX等)」、

の2種類に分解することができます。

 売上高の増減要因の計算方法(数量と価格・MIX)
販売数量は前期から20%増加しているので、数量要因は以下のように求められます。

数量要因=前期売上高×数量の増加率=50億円×20%=10億円

増収額の合計12.4億円から数量要因を引くことで価格・MIX他が計算できます。

価格・MIX他=売上高の変動額-数量要因=12.4億円-10億円=2.4億円

※MIXについて
MIXとは売上高の製品構成や地域構成のことを指します。例えば、利益率の高い製品がよく売れた場合はMIX(製品構成)はプラスですが、逆に利益率の低い製品の方が多く売れた場合はMIXがマイナスとなります。MIXは平均単価の変化として数字に表れます。

数量と価格・MIXによる売上高の変動要因を図に表すと以下のようになります。販売数量と価格が軸になっているので、青色部分の面積が前期の売上高、赤色部分が前期から今期までの増収額を表しています。赤色部分の増収額は数量要因と価格・MIX要因に分けられます。

Profit_Analysis002

②変動費の増減を2つの要因に分解する:数量増減の影響と変動費率の改善

ここまでは売上高の変動ですが、コストの変動も営業利益に影響します。

コストの変化は
①「販売数量の変動に伴う変動費の変化」、
②「変動費率の改善による変動費の変化」、
③「固定費の変化」、

の3種類に分解することができます。

まずは変動費です。

変動費は35億円から40億円に増加しているので、5億円の営業減益要因になってます。これを「数量変動に伴うもの」と「変動費率の改善によるもの」に分解します。

 変動費の増減要因の計算方法(数量増減の影響、変動費率の改善)
変動費は本来、販売数量と連動して変化します。具体的には材料費や外注費が変動費に該当します。前期から今期にかけて販売数量は20%増加しているので、変動費率の改善がなければ変動費も同じく20%増加するはずです。

販売数量の変動に伴う変動費の変化
=前期の変動費×販売数量の変化率=35億円×20%=7億円

一方で、実際の変動費の変化額は5億円です。上記で求めた7億円と実際の変動費の変化額の差額が、「変動費率の改善によるもの」となります。

変動費率の改善による変動費の変化
=実際の変動費の変化額-販売数量の変動に伴う変動費の変化=2億円

変動費率の改善とは、調達先への値下げ要求、生産性の改善、材料使用比率の改善など、様々な要因が考えられます。変動費の変化要因を図に表すと以下のようになります。

本来であれば数量が20%増えているので、変動費も20%増えるはずでした。しかし実際には20%増の7億円ではなく、5億円しか増えていません。この差額の2億円(下図の緑色部分)が変動費率の改善効果になります。

Profit_Analysis003

③固定費がずっと一定とは限らない

続いて固定費の変化について考えます。固定費は本来、売上高の変動とは関係なく毎期に一定の金額が計上されます。具体的には減価償却費や労務費が固定費に該当します。ここではシンプルに固定費の変動額を増減要因として計算します。

 固定費の増減要因の計算方法
固定費の変動額=今期の固定費-前期の固定費=15億円-10億円=5億円

新しい工場を稼働した場合や新たに人員を雇った場合に固定費は増加します。今回のケースでは固定費が10億円から15億円に増加しているので、5億円の営業減益要因となっています。

固定費の変化要因を図に表すと以下のようになります。

Profit_Analysis004

利益の増減益要因のまとめ

ここまで、営業利益の変化を売上高の変動とコストの変動に分けて考えてきました。それぞれの要因をまとめると以下のようになります。

表2:企業Aの売上高とコストの変動要因
Profit_Analysis005

 売上高・コストの増減要因のまとめ
・売上高の増減要因
(b) 数量要因=前期売上高×数量の増加率
(c) 価格・MIX他=売上高の変動額-数量要因

・コストの増減要因
(f) 販売数量の変動に伴う変動費の変化=前期の変動費×販売数量の変化率
(g) 変動費率の改善による変動費の変化=実際の変動費の変化額-販売数量の変動に伴う変動費の変化
(h) 固定費の変動額=今期の固定費-前期の固定費

売上高とコストの増減を要因別に5つに分解できましたが、増減要因の分析では通常、数量要因は売上高の変動と変動費の変動を合わせて考えます。上記の(b)と(f)を合計することで、数量による営業利益の増減要因が計算できます。

 販売数量の増加による営業利益の増減要因(限界利益の変化)
数量増加による増益効果=販売数量の増加に伴う増収額-販売数量の増加に伴う変動費の増加額=10億円-7億円=3億円

これで利益の増減要因分析は完了です。今回のケースでは営業利益が2.4億円の増益となりましたが、増益額を要因別にまとめた分析結果が表3です。

表3:企業Aの増減益要因分析
Profit_Analysis006

 営業利益の増減要因の計算方法まとめ
・数量要因(限界利益の変化)=前期売上高×数量の増加率×限界利益率
・価格・MIX他=売上高の変動額-数量による売上変動
・変動費率の改善による変動費の変化=実際の変動費の変化額-販売数量の変動に伴う変動費の変化
・固定費の変動額=今期の固定費-前期の固定費

※限界利益について
限界利益とは、売上高から変動費を引いた金額、または営業利益に固定費を足し戻した金額を指します。限界利益の売上高に対する比率を限界利益率と言います。数量のみが変化してその他の要因が一定だった場合、売上高の増減額×限界利益率は営業利益の増減額と一致します。

企業Aの前期の限界利益は15億円(営業利益10億円+固定費5億円)、限界利益率は30%でした。数量増による増収額10億円に限界利益率30%をかけると、限界利益の変動額3億円が算出されます。

これは上記の増減益要因における数量増による増益額3億円と一致します。

最後に:増減益要因分析の活用方法

ここまで、営業利益の前期からの変化を、(1)数量要因、(2)価格・MIX要因、(3)コスト要因、の3つに分けて分析する方法を解説してきました。

増減益要因を分析することで、その期の利益がどのような過程で生み出されたのか?一過性要因がどれぐらい含まれているのか?今後の利益に持続性はあるのか?ということを知ることができます。

アナリストが将来の利益を予想するときも、実績値を出発点として将来の増減益要因を予想します。

数量増がどれぐらいあるのか?価格は上がるのか、下がるのか?コストはどのように変化するのか?

利益を要因別に分解して予想することで、予想の精度を高めることができます。

過去の利益の実績値を評価するのにも、将来の利益を予想するのにも役に立つのが増減益要因の分析です。ぜひ、今後の企業分析に活用してみてください。

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