株式投資

PERを使った企業価値評価の基礎:将来予想をベースに計算する

2015/07/26

PERを使って株価が割安か割高かを判断する時は、過去の業績をもとに計算してもあまり意味がありません。将来予想をもとにPERを計算し、それを同業他社や過去の水準と比較して、初めてPERを有効に活用できるようになります。

その理由とPERの活用方法について解説します。

過去の業績に基づいたPERに意味はない

過去に起こった出来事は、基本的に全て株価に織り込まれています。つまり、過去の業績はすべて株価に織り込みなので、過去の利益や株主資本をもとにバリュエーション指標を計算しても、あまり意味がありません。

「ある会社の前期のEPSは500円だった。今の株価は4,000円なのでPERは8倍。つまりこの会社は割安だ!」

こういう議論には意味がないということです。
 

株価は過去の出来事ではなく将来の期待値を織り込みに行く

なぜならば、株価は過去の出来事ではなく、将来に対する期待値を織り込んでいるからです。

先ほどの会社の例でいえば、

「前期の実績EPSに基づいたPERは8倍だから割安だ」

というのは間違いで、

「今期は大幅減益が見込まれており、予想EPSは300円である。つまり株価4,000円だとPERは13.3倍。株価は適正価格である」

というのが正しい議論です。
 

投資家の期待値の高さによってPERの水準が変わる

投資家が企業に対して持っている期待値によって、PERの水準も変わります。高い成長が期待されている企業ほど、今年の予想EPSをベースに計算された予想PERの水準も高くなります。

例えば、今期の予想EPSが共に500円の企業Aと企業Bがあるとします。

利益成長への期待値が異なる企業AとB

  • 企業A:市場環境が成熟しており、来期以降も利益は横ばいと市場では見込まれている
  • 企業B:高成長企業で、3年後にはEPSが倍の1,000円、4年後以降も高い成長が続くと市場では期待されている

このような状況の場合、企業Aと企業BのPERの水準はどうなるでしょうか?
 

企業AとBの今期予想ベースのPERはどういう水準になるか?

  • 企業A:今後も利益は横ばい。投資家が株価に対する純利益のリターンを10%で求めた場合、EPSは500円なので株価は5,000円、つまりPERは10倍となる。
  • 企業B:仮に投資家が企業Bを「3年後の予想利益に対してPER 10倍」という評価をした場合、株価は1,000円×10倍=10,000円。今期予想ベースのPERは20倍となる。

企業Bの場合、3年後にはEPSが1,000円になると期待されているので、もし株価が企業Aと同じ5,000円だと3年後の利益予想をベースにするとPERは5倍となり安すぎます。つまりこの会社に株価5,000円、今期予想ベースのPER 10倍というバリュエーションがつくことはありえません。

企業Aと企業BのPERの水準を比べると、将来の利益成長が見込まれている企業Bの方が企業Aよりもバリュエーションは高く評価されます。
 

それでは、企業AのPER 10倍と企業BのPER 20倍というのはどちらの方が魅力的なのでしょうか?

今期予想ベースの2社のPER

  • 企業A:株価5,000円、今期予想EPSが500円なのでPERは10倍。
  • 企業B:株価10,000円、今期予想EPSが500円なのでPERは20倍。
  • 単純に比較するとPERが10倍の企業Aの方がPER 20倍の企業Bよりも安いような気もします。

    しかし仮に両社を3年間持ち続けた場合、企業Aは3年後もEPSは500円、その後の利益成長も期待できずに株価5,000円でPER 10倍から変わっていません。

    企業Bの場合、最初はPER 20倍で割高かと思いましたが、3年後にはEPSが1,000円まで拡大していて、株価10,000円だと企業Bと同じPER 10倍です。しかし企業Bの場合はその後も利益成長が見込まれているので、同じPER 10倍だったら企業Aよりも企業Bの方が割安だということになります。

    2社の3年後の姿(仮の株価が一定だった場合)

  • 企業A:株価5,000円、今期予想EPSが500円なのでPERは10倍。利益成長の期待はゼロ。
  • 企業B:株価10,000円、今期予想EPSが1,000円なのでPERは10倍。今後も利益成長が期待できる。
  • つまり、今の時点でPER 10倍の企業AとPER 20倍の企業Bでは、4年後以降の未来まで見据えれば企業Bの方が割安だということになります。

    企業Bは3年後においても高い利益成長が期待されているので、例えば仮に3年後の予想EPSに対して市場がPER 20倍と評価した場合、企業Bの現在の株価は1,000円×30倍=30,000円となり、今期予想ベースのPERは30倍となります。

    企業Aと企業BではPERの水準は大きく異なりますが、単純な比較でどちらが割安かという評価を下すことはできません。
     

    PERは将来予想をベースに計算しなければ意味がない

    以上のように、PERは将来の予想EPSをもとに計算しないと意味がありません。

    いつの時点の予想EPSを使うべきかは、市場がどれぐらいの時間軸でその企業の成長を見ているか、ということに依存します。

    今期の予想PERでは割高に見えても、それは市場が5年後の姿に期待しているからで、5年後のEPSをベースにPERを計算すると別に割高ではない、と言えるかもしれません。
     

    (1)過去の水準、(2)同業他社、(3)理論的な水準、と比較する

    予想ベースでPERを計算したら、次は割安か割高かを判断するために、以下の3つの比較を行います。

    1.過去水準との比較

    過去にその企業がどれぐらいのバリュエーションの水準で取引されていたかを調べて、今のバリュエーションが割高か割安なのかを判断します。

    過去水準と比較したPERの使い方の例
    企業Aは過去、PER 15倍ぐらいの水準で取引されていた。今は過去と比べて利益成長の期待値が高くなっているにもかかわらず、今の株価はPER 12倍で取引されている。PERが過去平均ぐらいの水準まで戻ることを想定すれば、今の株価にはアップサイド余地が大きい。

    過去の水準と比較する際には、バフェットコードという企業分析ツールが便利です。

    会社予想ベースの数値になりますが、PER、PBR、EV/EBITDAといった基本的なバリュエーション指標がどのような水準で推移してきたかをグラフで見ることができます。

    バフェットコードはこちら

    バフェットコードの使い方についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

    同業他社との比較

    財務体質や会計基準、収益性などが異なるので単純な横比較ができるわけではありません。

    しかし、同業他社の水準と比較することで、その企業が市場でどのように評価されているのかが分かります。

    PERを同業他社と比較する時の例
    企業AのPERは20倍、競合の企業BのPER 15倍に比べると割高な水準に見える。しかし企業Aの場合、繰越欠損金があるので税率が低く、現在の利益水準は実力値よりも押し上げられている。株価は既に企業Aの繰越欠損金がなくなって利益が通常レベルまで落ち込むことを織り込んでいるので、PER 20倍だからと言って割高な水準だとは言い切れない。

    ちなみに先ほど紹介したバフェットコードでは同業他社との比較も簡単にできます。

    理論値PER、理論PBRとの比較

    当記事で詳細を解説するのは避けますが、PERとPBRには理論値というものが存在します。

    理論PERと理論PBR
    理論PER=(ROE-成長率)÷{ROE×(株主資本コスト-成長率)}
    理論PBR=(ROE-成長率)÷(株主資本コスト-成長率)

    この理論的な水準と比較することで、株価の割安感を測ります。

    これらの理論式に基づけば、ROEが高ければ、成長率が高ければ、もしくは株主資本コストが低ければPERは低くなります。また、ROEが高ければPBRは高くなり、ROEが株主資本コストを上回ればPBR > 1となり、逆に下回るならPBR < 1となります。  

    余談:市場予想をもとに計算されたPERに、割高も割安もない

    ここから先は余談です。

    少し複雑な話になりますし、議論の余地もあると思うので、バリュエーションについて掘り下げて考えたい人だけ読んでください。

    市場が企業に期待していることは、既に株価に織り込まれています。厳密には期待の100%が織り込まれているというより、期待値の分だけ既に株価に織り込まれているというイメージです。

    例えば市場が「これから100%起きる」と期待している事象は、既に100%が株価に織り込まれており、その事象が起きたとしても株価は動きません。一方で、市場が「60%の確率で起きるだろう」と期待している事象は、60%が株価に織り込まれており、実際にその事象が起きると残りの40%の分が株価に反映されます。
     

    市場の利益予想の期待値として、コンセンサスというものがあります。コンセンサスとはアナリスト予想の平均値で、証券口座や会社四季報などで見ることができます。
     

    コンセンサスは市場の期待値なので、既に株価に織り込まれていることになります。つまり、コンセンサス通りの決算であれば、どんなに高い増益率だったとしても決算発表の後に株価は動きません。高い増益率は既に株価に織り込まれていたからです。

    コンセンサスを上回るポジティブサプライズの決算や、逆に下回るネガティブサプライズの決算だと、株価は決算発表の後に動きます。
     

    つまり何が言いたいかというと、市場の期待値は既に株価に織り込まれているので、コンセンサスをベースに計算したバリュエーションに割安も割高もないということです。

    (ここに議論の余地があります。株価は毎日のように動いており、必ずしも適正なバリュエーションで取引されているとは限りません。あるべきバリュエーションの水準というのは理論的に存在し、仮にコンセンサス通りの利益が出たとしても理論的な水準に株価が収斂していくとも考えられます。市場は必ずしも効率的ではない、ということです。)

    あなたがどう思っているかが重要で、自分の予想利益をもとに計算したバリュエーション指標を、同業他社や過去の水準と比較することに意味があります。ということは結局、市場予想を上回る利益を自分が予想するなら「買い」、逆ならば「売り」というシンプルな結論になります。
     

    まとめ

    最後に簡単なまとめです。

    • 過去の実績は全て株価に織り込まれているので、実績ベースのバリュエーションに意味はない
    • 市場の期待値も既に株価に織り込まれているので、コンセンサスベースのバリュエーションで割安かどうかは測れない(議論の余地あり)
    • 自分の予想利益をもとに計算したバリュエーション指標を、過去の水準や同業他社と比べることに意味がある
    • けっきょく、コンセンサスを上回る利益を予想するなら「買い」、逆なら「売り」

     
    バリュエーション理論についてはこちらの記事も参考にしてください。

    • この記事を書いた人

    上原@投資家

    「株式投資で人生を豊かにする方法」をテーマに情報発信しています。機関投資家の視点で最新のマーケット情報&投資ノウハウをお届け。【経歴】外資系金融で日本株アナリスト→外資系ファンドのファンドマネージャー→ニート【現在の投資先】日本株、米国株、新興国株、エンジェル投資、国内不動産、海外不動産、仮想通貨、NFT。

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