為替の決定要因について原理原則をまとめてみた

為替の決定要因についてはいろいろな理論がありますが、今回は各理論の簡単な説明と、参考になるデータを紹介します。

1.購買力平価説

購買力平価説とは、為替レートは2国間の通貨の購買力によって決定されるという理論です。

国が違っても同じ製品の価格は一つであるという「一物一価の法則」が前提にあります。各国の物やサービスの価格を比較して、為替レートが決定されるという理論です。

具体的には、例えばハンバーガーがアメリカでは1ドル、日本では100円で売られていたとします。ハンバーガーの価値は日本でもアメリカでも変わらないので、この場合の妥当な為替レートは「1ドル=100円」となります。
 

インフレ国とデフレ国の通貨

購買力平価説は、物価と併せて考えることで購買力平価説はより意味を持ちます。

  • インフレ国では物の値段がだんだんと上がる→通貨の価値が下落する
  • デフレ国では物の値段がだんだんと下がる→通貨の価値が上昇する

 

※参考サイト:日米のインフレ率の推移(世界経済のネタ帳)
 

参考データその1:国際通貨研究所が公表している購買力平価レート

図表1は、消費者物価指数等を基に算出している購買力平価為替レートと、実際の為替レートの比較のグラフです。

濃い青いラインが実際のドル円相場で、赤いラインが消費者物価から算出した理論値、緑のラインが企業物価から算出した理論値、薄い青色のラインが輸出物価から算出した理論値です。

このグラフを見ると、1985年から2000年頃までは輸出物価から算出された理論値に近い水準で実勢相場が推移していて、その後は企業物価に近づき、2014年以降は消費者物価と企業物価の理論値の中間ぐらいで推移しています。

図表1:ドル円購買力平価と実勢相場

出所:国際通貨研究所
 

参考データその2:ビッグマック指数

ビッグマック指数とは、世界中で売られているビッグマックの価格を国別に比較することで、理論的な為替レートを考える指数です。

例えば2018年のビッグマックの価格はアメリカでは5.28ドル、日本では380円で売られています。ビッグマック指数から算出される理論的なドル円相場は「1ド=72円」となります。

世界のビッグマックの価格一覧(世界経済のネタ帳)
 

2.国際収支説

国際収支説とは、為替レートは国際収支の動向(為替の需給)によって決まるという理論です。

日本の経常収支が黒字の時、外国では外貨を売って円を買い、日本に円を支払う必要があります。また、日本では受け取った外貨を売って円を買う動きが増加します。つまり、国内外で円に対する需要が高まるので、円高になるという流れです。

※経常収支とは、貿易収支(物の売買の収支)、貿易外収支(サービスの売買の収支)、贈与などの移転収支の合計。
 

経常収支と通貨の関係性

  • 日本の経常収支が黒字の場合→円高ドル安を引き起こす
  • 日本の経常収支が赤字の場合→円安ドル高を引き起こす

 

参考データ:各国の経常収支のまとめ

 

3.金利平価説

金利平価説とは、自国通貨と外国通貨の名目金利の差によって為替レートが決定されるという理論です。

名目金利の高い国の通貨は、将来的に価値が下がっていきます(アメリカの名目金利が日本よりも高かった場合、将来的にドルの価値が下がって円高ドル安になる、ということ)。
 

金利平価説が成立する背景

例えば、現在は1ドル=100円で、アメリカの名目金利が5%、日本の名目金利が1%であるとします。

日本の債権を100円持っていた人の資産は1年後に100円×1.01%=101円になります。1年後のドル円レートをF(1)とした場合、アメリカの債権を1ドル持っていた人の資産は1年後に円換算で、1ドル×1.05%×F(1)になります。

2国間の1年後の債権の価値に差がある場合、世界中の投資家が裁定取引を行います(リターンの高い国に投資を行い、リターンの低い国の資産を売却します)。その裁定取引の結果、どちらの国に投資した場合でも収益率が同じとなるはずです。

つまり、日本に投資をして1年後に得られる101円と、アメリカに投資をして1年後に得られる1ドル×1.05%×F(1)円の価値が等しくなります。

101円=1ドル×1.05%×F(1)の方程式を解いてやると、1年後には「1ドル=96.19円」となり、円高ドル安が進むことになります。
 

このように、金利平価説によれば金利が高い国の通貨は下落し、金利が低い国の通貨は上昇することになります。
 

中央銀行の利上げが通貨高を招く理由

一般的に、中央銀行の金利引き上げはその国の通貨の上昇を招きます。

これは一見すると「金利が高い国の通貨は下落する」という金利平価説と矛盾するように見えます。

しかし、利上げは現在の為替通貨に即座に影響する事象である一方で、金利平価説は「名目金利が高い国の通貨は将来的に下がっていく」という「将来の為替通貨の理論値」に対する理論なので、両者は矛盾することはありません。

金利引き上げによって瞬間的に通貨高となっても、金利平価説によってその国の通貨は将来的に価値が下がっていくことになります。
 

金利平価説を公式に当てはめると、以下のようになります(F(0)は現在の為替レート、F(1)は1年後の為替レート)。

F(0)×円金利=米金利×F(1)

F(1)=F(0)×円金利/米金利となるので、米金利の方が円金利よりも高い場合、F(1)はF(0)よりも小さくなります(つまり1年後に円高になる)。これが金利平価説です。
 

中央銀行の利上げの場合は考え方が異なります。

先ほどの金利平価説の式を以下のように変形します。

F(0)=F(1)×米金利/円金利

将来の為替レートであるF(1)は、購買力平価などのファンダメンタルズで一定水準に決まっています。

アメリカが利上げをした場合、F(1)の値は既に決まっているので、現在の為替レートであるF(0)の値が大きくなります(つまり円安ドル高。アメリカの利上げがドル高を引き起こしている)。

中央銀行の利上げニュースがあった場合、将来の為替レートではなく現在の為替レートに影響し、瞬間的に高くなった為替水準から長期的にF(1)へと近づいていくことになるわけです。
 

各国の政策金利の推移データ

 

4.貨幣数量説

貨幣数量説とは、社会に流通している貨幣の総量と、その流通速度が物価水準を決定している(貨幣数量と物価水準は比例する)という理論です。

流通する貨幣の量が増えると貨幣の価値が下がり、物価が上昇するという仮説で、直感的にも理解しやすいです。

貨幣数量説は以下の簡単な1つの式で表されます。

M・V=P・Y

M:世の中に出回っている貨幣の総量(マネーストック、又はマネーサプライ)
V:貨幣の流通速度(一定期間の間に貨幣が何回取引に使われるか。貨幣の回転率)
P:物価水準
Y:取引量(取引された物とサービスの総量)
 

ここでV(流通速度)=一定と仮定すると、物価はマネーストック(金融機関と中央銀行以外が保有する通貨の合計=現金通貨+預金通貨+譲渡性定期預金)を増やすことで上昇することになります。

マネーストックはマネタリーベース(=流通現金+日銀当座預金)を金融機関が市中に供給する(融資を増やす)ことで増加します。

日銀が量的緩和によって通貨の供給量を増やすと日銀当座預金が増加しますが、これだけでは市中で流通する現金(マネーストック)が増えるわけではないので、物価上昇にはつながりません。

量的緩和に加えて銀行が融資を増やすことで、市中に出回る貨幣の総量であるマネーストックが増加し、ようやく物価が上昇することになります。そして物価が上昇すると、購買力平価説によりその国の通貨は下落します。
 

ソロスチャート

ソロスチャートとは、ジョージソロスが考えたマネタリーベースと為替レートを比較したグラフです。

日本のマネタリーベースは日銀が毎月第2営業日に公表していますが、日米のマネタリーベース比とドル円為替レートを比較することで、今後の為替水準を予想しようというものです。

2011年4月以降のソロスチャート(Let’s GOLD)

実際は、マネタリーベースを増やしただけでは為替は動きません。信用創造により市中に出回るお金(マネーストック)が増えて初めて物価が上昇し、通貨安を招きます。

マネタリーベースから超過準備(民間銀行が法定準備金を上回って日銀当座預金に残しているお金)を差し引いた修正マネタリーベースを用いるか、マネーストックを用いた方がソロスチャートの相関は高くなるんですが、残念ながら定期的に修正ソロスチャートを更新しているサイトを見つけることはできませんでした。
 

アメリカの金融政策を決定するFOMCの政策動向は下記で定期的にチェックできます。
米国FOMCの政策動向(外為どっとコム)

日銀の金融政策決定会合の内容はこちらで確認できます。
金融政策決定会合の運営(日本銀行)
 

為替の決定要因についてまとめ

最後に、為替の決定要因についてまとめておきます。

  • 購買力平価説:インフレ国の通貨は安くなり、デフレ国の通貨は高くなる
  • 国際収支説:経常収支の赤字は通貨安を招き、経常収支の黒字は通貨高を招く
  • 金利平価説:高金利国の通貨は安くなり、低金利国の通貨は高くなる
    (但し、中央銀行の政策金利の引き上げは一時的な通貨高を招く)
  • 貨幣数量説:マネーストックが増えると通貨は安くなり、金融引き締めは通貨高を招く
    (金融緩和は物価の上昇を招き、通貨が安くなる)

 

為替相場を予測することは非常に難しいですが、これらの理論を知っておくと日々のニュースと為替相場に対する理解が深まると思います。

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