株価が割安か割高を測るための指標として、アナリストはPBRやPERといったバリュエーション指標をよく使います。
バリュエーション指標にはいろいろな種類がありますが、当記事ではよく使われる指標の計算方法や使い方をまとめて解説します。
- よく使われるバリュエーション指標の計算方法と使い方が分かる!
- バリュエーション指標の調べ方が分かる!
PERとかPBRといった言葉は知っているけどうまく使いこなせていない。。。
そんな方でもバリュエーション指標の基礎と株式投資への活用方法を学べる記事となっています。
各指標についてより実践的な知識をつけたいという方向けに、各指標を徹底解説した記事へのリンクを載せているので、そちらもご活用ください。
バリュエーション指標とは?
バリュエーション指標とは、株価の割安感・割高感を測るための指標です。
株価を利益や配当などの財務データと比較して、株価が企業の実力値よりも過大評価されていないかを測定するのがバリュエーション指標です。
PERやPBRなどが代表的なバリュエーション指標としてよく使われます。
当記事では、よく使われるバリュエーション指標の計算方法や使い方をまとめます。
当記事で解説しているバリュエーション指標は以下の通りです。
- PER(株価収益率)=株価÷1株当たり純利益
- PBR(株価純資産倍率)=株価÷1株当たり純資産
- EV/EBITDA倍率=企業価値(EV)÷EBITDA
- PCFR(株価キャッシュフロー倍率)=株価÷1株当たりキャッシュフロー
- 配当利回り=1株当たり配当金÷株価
- PSR(株価売上高倍率)=株価÷1株当たり売上高
当記事は、バリュエーション指標をあまり使いこなせていない初級者向けの記事となります。
各指標のより実践的な詳しい解説を別記事でも用意しているので、そちらも参考にしてください。
それでは、PERから順番に解説していきます。
PER(株価収益率)の計算式と使い方
PER(株価収益率)=時価総額÷当期純利益=株価÷1株当たり純利益
PERは1株当たりの純利益(EPS)に対して今の株価が何倍なのかを表しています。高い成長率が期待されている企業ほど、PERは高くなる傾向があります。
PERは株主にとっての「投資回収期間」を表す
PERには「投資の回収期間」という意味があります。
例えばPERが20倍というのは、純利益が今後も横ばいと仮定すると、投資金額分(時価総額)の利益を稼ぐのに20年かかるという意味になります。つまり「PER 20倍=投資回収期間が20年」ということです。
PERが高いということは、投資回収に時間がかかるので今の株価は割高と考えられます。逆に、PERが低いということは短期間で投資を回収できるので割安だと考えられます。
これがPERが高いと割高、低いと割安と判断される基本的なロジックです。
高い成長が期待される企業ほどPERは高くなる
しかし利益がどんどん成長していく企業の場合、今の利益で計算するとPERは割高に見えますが、将来の利益で計算すると分母の利益が大きくなるので、実際のPERは低いということになります。
例えば、株価が4,000円、今期の一株当たり利益が100円の会社のPERは40倍です。これだけだと高く見えるかもしれませんが、もし3年後の利益が2倍の200円に上がると、PERは4,000円÷200円=20倍となりそこまで高い水準ではなくなります。
成長率が高い企業は見た目のPERが高くても、将来の成長を考慮すれば実質的には割高ではないと判断されることもあります。高い成長が期待されてる企業ほどPERが高くなるのにはこういった背景があります
PERの逆数「株式益回り」とは?
PERの反対の概念として株式益回りというものもあります。
株式益回りは「1÷PER」で計算されます。つまりPERの逆数です。
例えばPERが20倍の会社の株式益回りは1÷20で5.0%です。これは株主から見た投資の収益率が5.0%であるということを意味します(株主価値である時価総額に対して毎年純利益5%というリターンが生み出されるという意味)。
株式益回りが高い企業ほど(つまりPERが低い企業ほど)、株価は割安だと考えられます。
株式益回りは投資に対する収益率で表されるので、こちらの方がPERよりも直感的に理解しやすいかもしれません。
PERを使うときのポイント
PERを使うときの注意点とポイントをまとめておきます。
- PERは、株主価値が純利益の何倍(何年分)に相当するかという指標
- 簡単に計算できるので、個人投資家でも機関投資家でもよく使われる
- 特別損益などの一時的な要因がある企業の評価には不向き
- 会計方針の違いによる影響を受けやすい
- PERを計算する時は将来の予想利益をベースにして計算する
- PERは過去の水準や同業他社の水準と比較して使う
PERの使い方についてさらに詳しく知りたい人は、こちらの記事を参考にしてください。
PBR(株価純資産倍率)の計算式と使い方
PBR(株価純資産倍率)=時価総額÷純資産=株価÷1株当たり純資産
PBRは1株当たり純資産(BPS)に対して今の株価が何倍なのかを表しています。「PBR=1倍」がよく割安・割高の判断基準として使われますが、これには注意が必要です。
PBRの意味「解散価値との比較」
純資産は企業の会計上の解散価値を表します。解散価値とは、企業を解散して持っている資産を売り、借金等を全て返して、最終的に株主に残る金額を意味します。
PBRはその解散価値に対して株価が何倍の水準で取引されているかを表しているので、PERと同様に高いと割高、低いと割安だとみなされます。
よく株価が割安か割高かを判断する基準として「PBR=1倍」が使われますが、これは解散価値との比較が意識されているためです。
PBRが1倍以下になっている時は、企業を解散させた時に残るお金よりも時価総額が低くなっているので、割安だと判断されます。
PBRは理論的にROEと相関する
「PBR=1倍」という水準がよく意識されると書きましたが、「PBR 1倍以下=割安」と盲目的に考えるのは間違っています。
なぜなら、PBRは理論的にROEと相関するので、ROEが低くて将来的に純資産が毀損する可能性がある場合は、PBRが1倍を切っていてもおかしくないからです。
ここでは詳しい解説は避けますが、理論的にはROEが株主資本コスト(株主が求めているリターンの水準)を下回っている場合、PBRも1倍を下回ることになります。
PBRが1倍以下で割安だと思って株を買っても、ROEに改善の兆しがないといつまでたっても割安な状況が解消されず、株価は上がりません。このような状態を「バリュートラップ」と呼びます。
PBRを使うときのポイント
PBRを使うときの注意点とポイントをまとめておきます。
- PBRは株主価値が純資産の何倍に相当するかを表す指標
- 純資産は利益よりも変動しにくいので、PERよりもより保守的な指標となる
- 株価の下値を探る展開の時によく使われる
- 理論的にはROEと相関するので、ROEが株主資本コストを下回る企業の場合、PBRは1倍(解散価値)を下回る
- 含み益を考慮した修正純資産を用いる場合もある
PBRの使い方についてさらに詳しく知りたい人は、こちらの記事を参考にしてください。
配当利回りの計算式と使い方
配当利回り=1株当たり配当金÷株価
配当利回りは投資額に対してどれぐらいの配当をもらえるか、つまり配当のリターンを表す指標です。例えば、1年間の配当金が20円で今の株価が1,000円の場合、配当利回りは20円÷1,000円で2.0%となります。配当利回りが2%の企業の株式を100万円分持っていると、配当金として100万円×2%=2万円を毎年もらえることになります。
配当利回りは最も効果が安定したバリュエーション指標
配当は利益に比べるとぶれが小さいので、PBRと同様に株価の下値を探る展開の時によく使われます。
また、配当利回りはPBRやPERと比べても効果が安定しているバリュエーション指標です。
過去の日本の株式市場を分析すると、配当利回りが高い企業は毎年アウトパフォームしやすい傾向があります。
配当利回りを使うときの注意点
しかし、配当利回りを使って投資をするときは、配当の持続性に注意が必要です。
配当利回りが高くて割安に見える企業でも、利益水準に応じて配当金額がよく変わる企業だと、減益になると配当金が減って配当利回りが低くなってしまいます。
配当利回りを使って投資をするときは、配当と利益の安定性を必ずチェックする必要があります。
配当利回りを使うときのポイント
配当利回りを使うときの注意点とポイントをまとめておきます。
- 配当利回りは、配当収入(インカムゲイン)の投資収益率を測る指標
- PBRと同様に株価の下値を探る展開のときによく使われる
- 配当は利益に比べると安定しているので、配当利回りは効果が安定している。
- ただし、配当利回りを使うときは配当の持続性に注意が必要
配当利回りの使い方についてさらに詳しく知りたい人は、こちらの記事を参考にしてください。
EV/EBITDA倍率の計算式と使い方
EV/EBITDA=企業価値(EV)÷EBITDA
・EV=時価総額+総有利子負債-現預金
・EBITDA=営業利益+減価償却費
※日本の会計基準だとEBITDAは「経常利益+支払利息-受取配当金+減価償却費」で計算する方がより正確ですが、簡易的に「営業利益+減価償却費」で計算することが多いです。
企業価値とは、株主から見た会社の価値である時価総額と、債権者から見た会社の価値である純有利子負債(総有利子負債-現預金)を足したものです。
そしてEBITDAとは、事業活動から得られるキャッシュフローに近い意味を持ちます(キャッシュアウトを伴わない費用である減価償却費を営業利益に足し戻しているので)。
すなわちEV/EBITDA倍率とは、時価で評価した企業の価値が、事業キャッシュフローの何倍なのかを表します。
EV/EBITDAを使うときのポイント
- 企業価値がEBITDAの何倍(何年分)に相当するかを表す指標
- 設備投資など、資産計上する先行投資負担が大きい企業の評価で使われる⇒積極的な投資を行って利益が圧迫されている企業はPERが実力よりも高くなりがちなので
- 資本構成(負債と自己資本の割合)が異なる企業の比較によく使われる⇒PERやPBRは負債比率の高い企業ほど高くなる傾向があるので
PCFR(株価キャッシュフロー倍率)の計算式と使い方
PCFR(株価キャッシュフロー倍率)=時価総額÷キャッシュフロー=株価÷1株当たりキャッシュフロー
※キャッシュフロー=当期純利益+減価償却費
PCFRは1株当たりキャッシュフローに対して今の株価が何倍なのかを表します。
PERに似ている指標ですが、減価償却費を当期純利益に足し戻すことで、積極的な投資のせいで利益が圧迫している企業も平等に評価することができます。
EV/EBITDA倍率と同様に、会計基準が異なる企業同士を比較する時や、積極的な投資を行っている企業とそうでない企業を比較するときによく使われます。
PCFRを使うときのポイント
- 株主価値がキャッシュフローの何倍(何年分)に相当するかという指標
- 設備投資など、資産計上する先行投資負担が大きい企業の評価で使われる⇒積極的な投資を行って利益が圧迫されている企業(減価償却費が増えるため)はPERが高くなりがちなので
PSR(株価売上高倍率)の計算式と使い方
PSR(株価売上高倍率)=時価総額÷売上高=株価÷1株当たり売上高
PSRは1株当たり売上高に対して今の株価が何倍なのかを表します。
新興成長企業のように今は利益が出ていなくてPERが異常値となっていても、売上高と株価を比較することで割安か割高かを判断することができます。
また、リーマンショックのように大企業でも赤字になってしまう局面でもPSRはよく使われます。
PSRを使うときのポイント
- 株主価値が売上高の何倍(何年分)に相当するかという指標
- マーケットシェア重視の企業の評価に向く
- 将来性は高いがまだ利益が安定していない(もしくは赤字)の企業の評価で使われる
- リーマンショックのように大企業でも赤字になるような場合でも使われる
バリュエーション指標はどこで調べることができるのか?
会社予想ベースのPERはYahoo!ファイナンスで!
Yahoo!ファイナンスの各企業のページで、会社予想ベースのPERと配当利回り、実績ベースのPBRを見ることができます。
例えば、下記のトヨタ自動車のページの真ん中あたりに、参考指標として書くバリュエーション指標が掲載されています。
Yahoo!ファイナンスでは国内市場のPER、PBR、配当利回りのランキングも見ることができます。
低PERランキング
低PBRランキング
配当利回りランキング
国内市場の平均的なバリュエーションの水準を知りたい場合、日本経済新聞社のページで見ることができます。
日本経済新聞社:国内の株式指標
過去のバリュエーションの推移はバフェットコードで!
Yahoo!ファイナンスやその他の株価サイトでは「今の株価のバリュエーション水準」を見ることができます。
しかしその会社のバリュエーションが「過去にどういう水準だったのか」は見ることができません。
今のバリュエーションが割高か割安かを判断するためには「同業他社との比較」と「過去の水準との比較」をしなければ意味がありません。
「PERが10倍以下だから割安だ」とか「PBRが1倍を切ってるからこれ以上下がらない」という議論にあまり意味はないんです。
そんな時に役に立つのがバフェットコードというサイトです。
バフェットコードでは過去のバリュエーションの推移をグラフで見ることができたり、類似企業とバリュエーションや財務指標を比較することができます。
バフェットコードの使い方についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。